とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

フットボール批評issue28

 サッカーのない日常が始まって、早や3ヶ月が経とうとしている。それでも先月からブンデスリーガが始まって、いよいよ来月にはJ1リーグも開幕する。来月になったら、またDAZNを再契約しよう。

 それにしてもこの間、新型コロナへの対応という点において、Jリーグは日本のスポーツ界において優等生的な対応をしてきたように思う。政府の無思慮な迷走に戸惑わされることなく、かなり初期から中国での感染状況等を見極め、開幕戦を始めたにも関わらず、翌週にはルヴァン杯や第2節からの中断を果断に決定。再開にあたっても、2週間に1度のPCR検査を実施するなど、プロ野球などの日和見な対応ではなく、筋の通った対策と方針の下、再開への道筋を提示している。サッカーファンにとっては実に誇らしいことだ。

 そして、こうした対応の中心にいるのが、Jリーグチェアマン村井満だ。本書では冒頭に、村井氏へのインタビューを掲載。1月22日の実行委員会で新型コロナ窓口担当を置いたことを皮切りに、その着実な検討と対策、インタビューではこうした対応を可能とした村井の信念を見事に描き出している。また、続く記事では、クルーズ船に乗り込み、その感染対策の誤りを指摘して話題を集めた、神戸大の岩田教授にインタビューをしている。岩田教授がサッカーファンだとは知らなかった。「今はウイルスよりも人間が怖い」。その冷静で分析的な発言は注目に値する。

 その後は、今季レッズに加入したレオナルドへのインタビューやユーチューバーとして活躍する那須大亮、いわてグルージャのNOVA参画など、普段の内容となっている。そうした中でも、2月・3月に行われたCLラウンド16のリバプール対アトレチコ・マドリード戦を取り上げ、シメオネがクロップ相手に“ゲーゲンプレッシング2.0”を見せたという庄司悟氏の批評は興味深い。

 いつもの連載の中では、武田砂鉄が「スポーツを見て叱責したい。愚痴りたい」と書いていて、最初読んだ時には「なんだかな」と思ったが、その後に掲載されている「『フットボールとは何か?』を考える」を読むと、コロナ禍でプレーできない中、元Jリーガー井筒陸也が「フットボールに意味はあるのか?」と自問している。小林祐三との対談を通じ、アプリオリに「スポーツは良いもの」という常識そのものを問い直す。

 武田氏は以下のように書く。

〇【武田砂鉄】スポーツは心を癒す。…スポ-ツとは、ライバルが正々堂々と競い合うもの。確かにその通り。…それなのになぜ、私はテレビの前で不満そうな表情をしているのだろう。…とっても理不尽だが、選手にヤジを飛ばしたいのだ。不満をぶつけたいのだ。…あらゆるスポーツが消えると、個人の鬱憤が溜まっていく。スポーツって叱責や愚痴を引き受けていたのだ。そのことに感謝をしつつ、早く始まってくれないかなと思う。(P126) 

 

 確かにそのとおりだ。僕らはもっと本音を語っていいのだ。本音を語り合うことで、本当の意味で「フットボールの意味」が明らかになるのかもしれない。

 なんてことを考え始めたところで、ポルトガルリーグが始まり、プレミアリーグもラリーガも再開される。3ヶ月という期間を経て、Jリーグは僕らの目にどう映るだろうか。再開後、改めて、アフターコロナにおけるサッカーの意味を考えてみたい。

 

フットボール批評issue28

フットボール批評issue28

  • 発売日: 2020/06/08
  • メディア: 雑誌
 

 

〇【村井満】社会・スポーツにとってコロナの本質的な意味はなんだ?と、自問自答した時にこれが分断だと定義したんですよね。コロナは国境を越えて国家からの分断を生んでいき…地域と大都市の分断をし…スポーツ選手はサッカーから分断されている。チームと選手は分断され、クラブとリーグは分断され…心の中での分断を生んで…偏見や差別が生み出される。…実行委員と我々Jリーグが分断されていては、もう”彼ら”の術中にはまってしまうから徹底的に結束していこう。それがこの頃のコンセプトでした。(P9)

〇【村井満】PDMCS…PDCA…の真ん中にMissを置こうと。プランを立てて、実際行ってみて、でも失敗をして、もう一度軌道修正をしていく。サッカーの本質はミスにあると言われていますが…では観客は何を見ているかというと、その大半はシュートミス、パスミスを見ているわけです。…それがサッカーの本質だとすれば、Jリーグに携わる人間が…ミスを恐れてどうするんだと。(P9)

〇【岩田健太郎】今、一番怖いのはコロナウイルスよりも人間です。我々が戦うべき敵は人間ではないはずです。だから人間を戦いの対象にしてはダメ…です。/人間は大体、恐怖に駆られるとやることは一緒で…すぐに評論家になって感染者を叩く。…しかし、同じ活動をしても感染していない人は叩かれていないわけです。つまり、起きた結果に対して怒られているわけです。…すべての人が罹患する可能性があるわけですから…結果だけを見てバッシングする、謝罪させる、というのはおかしいのです(P16)

〇【庄司悟】ゲーゲンプレッシングとは言い換えれば罠に近い。相手に「ボールが取れる」と思い込ませボールを意図的に渡し、プレッシングで前がかりになった相手から再度ボールを奪う。/トング、ノコギリも同様に、V字のスペースがあると相手に思わせて中を使わせようとし、実は蟻地獄が待っているというれっきとした罠である。ゲーゲンプレッシングの考案者クロップを罠にはめ、より攻めにつながりやすいゲーゲンプレッシングに仕立て上げたという点では、シメオネが“ゲーゲンプレッシング2.0”のフェーズに昇華させたと言ってもやはり大袈裟ではない。(P79)

〇【井筒陸也】身体を使って、努力をして、チームで勝利を目指す。すべからく良いものであるという暗黙の同意があって…その説明を求められる機会は皆無でした。しかし、間違いなく「フットボールに意味はあるのか?」を、今後は問われることになります。…少なくとも「意味がある」と言い切れるように、改めてゼロから考えてみるのがいいと思っています。(137)