とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

星に仄めかされて☆

 前作「地球にちりばめられて」は多くの登場人物が欧州を追いつ追われつしつつ、母国や母語の意味を考えさせられる作品だった。前作の最後では「それなら、みんなで行こう」と新たな旅立ちが宣言されたと私のブログには書かれているが、いったいどこへ向かうのだったか。どうやら、Susanooに言葉を取り戻させるため、コペンハーゲン失語症の専門家のもとへ向かうということだったらしい。本作品は「地球にちりばめられて」の続編である。どうやら3部作らしい。

 多和田葉子の作品の中で最も好きなのは「雪の練習帳」だ。この作品を読んでいてようやく気が付いた。クヌートって、「雪の練習帳」に出てくるシロクマの名前じゃなかったっけ。そして本作品のクヌートも熊のぬいぐるみみたい。前作でSusanooって、スサノオノミコトから採られた名前と思ったが、Hirukoもそうだった。日本神話に登場するイザナギイザナミの間に生まれた4人の子供の一人。ヒルコ、アマテラス、ツクヨミ、そしてスサノオ。本作品でツクヨミが登場する。フランス語でT’es couillon me。「あなたは私」。でも、ツクヨミと呼ばれたムンンは新しい旅、Hirukoの消えた国を探す旅には参加しない。

 そしてまだ、アマテラスが現れない。Hirukoが実はアマテラスと両有しているのかも。いずれにせよ、第3部はみんなで行く最後の旅だ。最後に「星に仄めかされて」に合わせるかのように、登場人物一人ひとりが星に擬せられる。ナヌークはレグサス星。ノラはアークトゥルス星。アカッシュは赤いベテルギウス。クヌートはシリウス。Hirukoはカペラ。Susanooはアルタイル(彦星)。では、織姫は? すべては次へつづく。第3部が待ち遠しくなってきた。

 

星に仄めかされて

星に仄めかされて

 

 

○自分がみんなに嫌われているなど考えてみたこともなかった。「自分」という名前の楽しい闇の中で生きていた。どこか壁か分からないので、狭いと感じることがない。自分というものの輪郭が見えない。自分のいる空間全部が自分だから無理もない。ところがその空間が少しずつ明るくなってきた。…そこにいるのは、疲れた偏屈な男である。偏屈だと分かったと同時に、そんな自分を愛してくれる恋人が見つかったのだから不思議だ。(P56)

○言葉を口にすれば、必ず誰かを傷つける。絶対に傷つけないように細心の注意を払って遠回しな言い方をすれば、誰を傷つけないために何を口にしないようにしているのかが逆にはっきり輪郭をあらわす。…Susanooが子供の頃に暮らしていた国はすごく文房具が発達していて、空気に字を書くことができるペンがあった…空気への書き込みを読まないふりをしながら素早く読み取って行動することが子供の頃から要求された。(P168)

○今思いついたんだけど、みんなでキャンピングカーを借りて旅してみたら?…いや、船の方がいいな。…船に乗ってHirukoの故郷を訪ねてみないか? 地中海をまわりこんで、スエズ運河を抜けて、アカッシュの故郷経由で東南アジアを辿っていけば、その先がどうなっているのか、自分の目で確かめられるだろう。(P306)

○「答えは、踊りの中にある。さあ、もう少し踊ろうよ。」…ノラの樫の木みたいな身体、アカッシュの柳みたいな身体、クヌートのぬいぐるみみたいな身体、それぞれ身体がこんなに違っているのに、今同じ曲に合わせて一匹の大蛇になって踊っている。…「踊りはここまで。さあ、みんな旅の支度にかかりなさい。(P325)