とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

京都まみれ

 「京都ぎらい」がベストセラーになり、井上章一も一躍、全国区の著名人の一人になった。個人的にも京都で生活した経験があるだけに、「京都ぎらい」はそれなりに面白く読んだが、「2016年、私が読んだ本ベスト10」の第4位に挙げている。そんなに面白かったという記憶がない。それで本書もほとんど期待せず、読み始めた。面白かったかと言うと、それほどでもない。まあ、「京都ぎらい」からさらにマニアックな内容になっているかもしれない。

 例えば、第4章「東へ西へ」は、西東京市や東銀座、文京区など、東京が題材になっている。もっとも京都との比較としてだが。それにしても、銀座の発祥が伏見区にあったとは知らなかった。ちなみに伏見区は洛中ではない。

 第2章で、「天皇はちょっと東京に旅行へ行っているだけだ」というおなじみの話題について、しかし実は、朝廷の不在を悲しんでいるのは、丸太町通から北の西陣や上京などの人々であって、祇園祭を担う南側の町衆は丸太町通から北は洛中とは思っていないんじゃないかという説も紹介される。なんと、御所は洛中ではない!!!

 第5章「老舗の宿命」では、「このあいだの戦争は、本当に応仁の乱か」という都市伝説について検討するが、西陣育ちの女性が「宗全さん」と言うのを聞いて、この地区ではそうかもしれないと書いている。

 それにしてもめんどくさいことだ。やはり京都は観光に行くところで住むところではない。もっともコロナ禍の今は京都ですら行く気にはなれない。そういえば京大も授業はリモートで行っているのだろうか。ならば住む必要もなく、勉強や研究が目的で京大へ行った学生にとってはいいかもしれない。井上氏も「京都ぎらい」の割にはよくぞここまで京都について勉強したものだ。「嫌いな奴ほどよく知る」ということか。

 

京都まみれ (朝日新書)

京都まみれ (朝日新書)

 

 

○維新が成就したあともなお、政府にとって京都はとくべつな街でありつづけた。ほかの街にたいするのとはちがう配慮を、東京の政権は見せている。/皇室からの御下賜金も、京都はよそより多く手に入れた。…それらは、京都の近代化を、側面からささえもしただろう。…京都をすてた政府の資金援助がなければ、回復には、もう少し手間がかかったと思う。(P52)

○御所のある丸太町通の北側は、自分たちのなじんだ京都じゃない。べつの町だ。…町のまとまりなら、祇園祭がその象徴的な役目を、じゅうぶんになってくれる。朝廷のそれには、期待する必要がない。…幕末におこった蛤御門の変で、街は焼きつくされた。…さあ、これから復興という時、朝廷は東京に拉致される。…公家も、いっせいにあちらへにげだした。人びとの絶望は大きかったと思う。…そんなエリアだからこそ、例の天皇物語は派生したのだと思う。(P76)

○漢字の「京」は君主の居城があるところをさす。…「都」も、校庭の居館がもうけられたところをあらわす文字である。…京都が、今日「京都」を名のるのは、おこがましくないだろうか。…東京こそが、今では「京都」の名にいちばんふさわしい都市なのである。…もう、事実上その地位をうしなった京都が、「京都」と称するのを、東京はみとめている。…こういうことを、われわれはどう受けとめたらいいのだろう。(P82)