とんま天狗は雲の上

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どうして2027年にリニア開業しなくてはいけないのか

 リニア工事についてJR東海静岡県の対立が続いている。工事により静岡県側に流れる水量が減らないことを条件として提示する静岡県に対して、JR東海は「流量確保は約束する」もののその具体的方法について県側の理解が得られない状況の中で、「2027年に開業するためには6月中にもヤード工事に着手することが不可欠」だとして、水量に影響のないヤード工事の着手だけでも認めてほしいと訴えてきた。しかし、川勝知事が厳として応じない。月が替わってついに、JR東海は「2027年の開業は難しい」として、開業延期を表明した。

 この問題については、愛知県の大村知事も「ヤード工事がなし崩しにトンネル工事につながるわけではない」として静岡県側に容認を求めるなど、静岡県以外の者からは静岡県の頑なな姿勢を非難する傾向がみられるように思うが、さすがに地元の静岡新聞では、「大井川とリニア」というサイトを作って、継続的かつかなり掘り下げて、この問題を取り上げている。また、先日は水ジャーナリストを自称する橋本淳司氏の「リニア中央新幹線『静岡県がごねている』は本当か。大井川の水問題の歴史:自ら考える日本と世界 橋本淳司」という記事がYahooのサイトに掲載された。これらを読むと、静岡県側の懸念や理由がよく理解できる。

 6月26日には、JR東海の金子社長と静岡県の川勝知事のトップ会談が開かれたが、あくまで水問題への懸念を伝える知事に対して、JR東海側は「2027年の開業が難しくなる」ということしか言っていない。リニア中央新幹線の駅さえ設置されない静岡県にとって、開業時期の遅れは何の支障にもならないが、外堀を埋めて孤立させようというJR東海側の魂胆には横暴なものを感じるし、そもそも静岡県側の懸念に真摯に対峙していない印象を持った。ちなみにやはりネットでは静岡県批判が多かったようだ(「トップ会談後ネットに相次ぐ静岡県批判 『駅ないからごねている』、リニア不要論も 大井川水問題」)。その後、7月10日は国交省次官と川勝知事との会談が行われたが、これも物別れに終わった。国交省が自ら設置した専門家会議の結論が出ていない中で、今動いても、JR東海の手先だという印象を強めただけで、ほとんど意味のない会談だった。

 私も、リニア中央新幹線自体がそもそも必要なのかとも思うし、コロナ禍でテレワークの普及や新しい生活様式が推奨される中で、「リモートはリニアよりも速い」という意見には賛意を覚える。新幹線は民間事業なので、開業して経営的に成り立つなら否定はしないが、2027年開業ということにはどういう意味があったのだろうか。愛知県では2026年にアジア大会が開催されるが、そもそもリニアの開業はアジア大会に間に合わない。それを「2027年開業に間に合わないのは静岡県のせいだぞ」といったJR東海側の高圧的な姿勢には何を勘違いしているのだろうかと思ってしまう。

 現時点で大井川の流量問題に対する工法的な解決策が見えていない。それができなければトンネル掘削工事自体ができないわけで、開業がそもそもできない。「解決はするから、影響のない準備工は認めろ」と言っても、現時点で技術的な提案ができないものが、今後可能になるという楽観論自体が理解できない。将来的に無駄になるかもしれない工事をJR東海が自らの負担で実施する分には、静岡県側に何の負担もないのかもしれないが、地元自治体がこぞって反対、もしく疑念を持っている中で、県知事として工事を許容することはできないという政治的判断もあるのだろう。もっともリニア新幹線の建設工事には国の財政投融資資金が投入されることになっているから、静岡県以外の国民にとっても全く関係のない話ではない。無駄になるかもしれない工事への公費投入を阻止していると思えば、静岡県の対応は応援しなくてはいけないのかもしれない。

 今後、この問題がどのように解決されていくのか。川勝知事の任期はあと1年。既に自民党対立候補の擁立へ意欲的に動いているようだ。他県のこととして見過ごすことなく、今後もこの問題がどう進展していくのか、注視していきたいと思う。