とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

動物感覚

○私は動物がどんなふうに考えているかわかるのだが(P9)

 書き出しを読んでびっくりした。えっ、そこまで自信を持って、自分は動物の気持ちがわかると言ってしまっていいの? でも読み進めるうちに、確かにそう言っても過言ではないということがわかってくる。

 自閉症である筆者は、前頭葉の働きが一般の人と違うため、動物本来の知覚・感覚を感じることができる。一般の人間は、人間の視点から動物を理解しようとするが、動物の気持ちになって、動物の感覚で感覚器官を働かせ、それをそのまま感じることで、違った世界が見えてくる。我々は感覚器官で知覚したもの、感じたことをいったん前頭葉に入れて、一般化という処理をした上で理解する。それは世界そのままではなく、人間が理解した世界なのだ。

 本書では、動物がどんな場合にどんなふうに世界を知覚し感じているか、それがどう行動に現れるのかと様々な例を挙げて説明し、同時に対処法も助言する。ペットを飼っている人、畜産業を営んでいる人、その他、日頃から動物に関わりのある生活をしている人にとっては必読の本だろう。残念ながら、私はペットを飼ってはいない。飼いたいとも思わないが、本書を読んで、とても私には無理だとますますペットを飼おうという気がなくなった。

 最終章では、人間はオオカミと一緒に暮らすことで集団生活を覚え、友情を覚え、他の霊長類から進化したというオーストラリアの研究チームの学説が紹介されている。アポリジニーには「犬のおかげで人間になれる」ということわざがあるそうだ。そうして犬も進化し、人間も進化した。しかも役割分担をすることで、お互いの脳体積を節約し、より専門化したそうだ。

 しかし「そのことを人間は忘れていないか」というのが、筆者からの最後の問い掛けだ。そうかもしれない。動物と人間が今以上にわかり合うことで、さらに幸せな世界を作ることができる、かもしれない。でも、そうした活動は動物好きの人に任せよう。私は人間として進化した部分を活用して生きていくしかできそうもない。犬を見たらとりあえず防御の気持ちを持つことは今後も当分変えられそうにないから。

 

 

○状況を実際のあるがままの姿で見ずに、頭の中で抽象化し一般化した概念を見ていた…。/これが動物と人間の、そしてまた、自閉症をもつ人とそうでない人との大きなちがいだ。動物も自閉症をもつ人も…実際にあるもの自体を見る。自閉症の人は世の中を構成しているこまかい点を見るが、ふつうの人はそういったこまかい点をすべてぼやけさせて、世間の一般的な概念にまとめる。(P47)

○動物は人間よりも痛みを弱く感じ、恐怖を強く感じると私は考える。…動物と自閉症の人はどちらも、概して前頭葉がふつうの人とくらべて強靭でないために、恐怖システムが過敏になっているようだ。…前頭葉には恐怖と闘う第二の方法がある…それは…言語だ。自閉症でない人は、言語を使って自分自身に語りかけ、恐怖から抜け出している。…怖いものを描いた絵は、言葉で述べた説明よりもはるかにおそろしい。(P252)

○知能にかけては人間が創造の極致だとわかったつもりでいる研究者は、見当ちがいをしている。それはそう思っているだけで、実際にわかっていることではない。私が到達した結論は、哺乳動物はさまざまな点で人間に似ているが、ほかの点では、まったくの宇宙人といえるかもしれないというものだ。動物に関して私たちがしてきた多数の検査や実験は、おそらく、ほんとうに彼らが語っていることをあきらかにしているわけではない。(P328)

○ほかの霊長類がしなくて私たちがすることには、犬がしていることがたくさんある。…犬のほうこそ、私たちにいろいろ教えてくれたのだ…犬のおかげで、人間はほかのすべての霊長類から抜きん出るようになった。…そして犬の脳は10から30%小さくなった。…人間の脳も…10%小さくなった。…犬と人間の脳は専門化されたのだ。人間は仕事の計画と組織化を引き受け、犬は近くの仕事を引き受けた。犬と人間はともに進化して、よき伴侶、よき仲間、よき友達になったのだ。(P399)