とんま天狗は雲の上

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新型コロナウイルスの真実

 岩田健太郎氏と言えば、単身、ダイヤモンド・プリンセス号に乗り込み、感染対策が不十分なことを暴露した医師として有名だ。その事件の後、たぶん初めて取材を受け、発行した本だと思う。「新型コロナウイルスの真実」というタイトルがついているが、まだわからないことも多いウイルスであり、かつ本書は3月中旬に口述筆記されていることから、情報としてもけっして新しくない。「真実」というタイトルはやや盛り過ぎ。「新型コロナウイルスへの対応と日本社会」くらいが適当なところだ。

 ちなみに、本書でも少し書かれているが、岩田健太郎氏はサッカー経験者であり、マンチェスター・ユナイテッドのファンだと公言している。「サッカーと感染症」や「新型コロナウイルスとの戦い方はサッカーが教えてくれる」といった著書もあり、先日は「FOOT×BRAIN」にも出演していた。その点からも岩田氏には好感を抱いている。ちなみに、9月11日には内田樹と共著で「コロナと生きる」を出版した。これもまた機会があれば読んでみたい。

 本書については、新型コロナウイルスへの感染対策といった部分ではなく、ダイヤモンド・プリンセス号事件や、これまで感染症対策の専門家として経験してきたことなどから、日本社会における問題点などを指摘するところが面白い。リスクコミュニケーションや同調社会への警告、多様性の重要性、「安心を求めてはいけない」といった警句などが興味を引く。口述筆記ということもあり、あっという間に読み終えた。最近では「ファクターXは実在しない」という記事も投稿している。今後も岩田健太郎氏には注目していきたい。

 

新型コロナウイルスの真実

新型コロナウイルスの真実

 

 

PCRは診断の…助けにはなる…けど…正しく診断することはできない。正しく治療することも…できない。…だからやるべきは…「正しく判断」することなんです。…コロナであるという「診断」はできていないけれど、コロナであるという「判断」をしておけば、対応に間違いはない。仮に違う病気だったとしても対応できる判断をすればいい。/これが、正しく診断することを放棄して、正しく判断するということです。(P38)

厚労省たちはリスクコミュニケーションに失敗したんです。…コミュニケーションで大事なことは、事実をちゃんと公表すること…情報公開と透明性が何より大切…です。…ちゃんとできていないこと自体は…問題ない。…ちゃんとできてる国なんてひとつもないですよ。/でも…「ちゃんとできておりますよ」という日本の国内では通用する論法を、世界に向けてやっちゃったのが、厚労省の何よりの失敗ですよ。(P126)

○パニックが起こると人々が群集化して、…買い占めたり、差別、迫害をし始める。そこは世界共通なんですけど、日本の一番いけないのは、政府がそこに乗っちゃうところです。…みんなの欲望に合わせてしまう。/みんながパニックになって騒いでいるときには、政府の上にいる人たちが「まあまあちょっと待って。それは違うよ」とやるのが国の本来のあるべき姿なのに、上までそれに乗っかっちゃう。(P184)

同調圧力が極まると、全体主義に行き着きます。…右も左も関係なく、全体主義、言い換えると多様性を認めないことが、とても危ういんです。…正しいことをやってると信じている全体主義ほど、恐ろしいものはないですよ。…だから正しいかどうかとは関係なく、多様性を保持することこそが大事なのです。…その意見がどんなに荒唐無稽であろうと、その意見があるということだけは認めるという原則が守られないと、危ない。(P187)

○安心を求めてはいけない。「安心なんて幻想だ」ということをしっかり理解することが大切になります。…不安に思うべきところは、不安なままでいいんです。不安にならなきゃいけないシチュエーションで麻薬を打って安心したら、より危険になるんです。…「安心」って、危ないんですよ。(P199)