とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

川淵三郎に納得してしまったことを反省する。

 森喜朗の女性蔑視発言から東京五輪組織委員会が揉めに揉めている。当初は森氏の謝罪で火消しを謀り、一度はIOCもそれを受け入れるコメントを出したが、治まらず、辞任の方向となって、後任にいったんは川淵三郎の就任が報道されたが、それも一夜で撤回。現在は候補者検討委員会が設置され、選定作業が進められている。だが、検討委員会のメンバーは非公開だそうで、それがまた新たな火種となりそうな感じ。いったいこの騒動はどこまで行くのか、どう治まるのか、実に興味が尽きない。

 私もこの一連の動きに、最初は「謝罪だけで収めてしまうのか。実に日本らしい。IOCも今の時期、揉めたくないだろうしな」と思ったものが、スポンサー問題で火がついて、森氏の辞任不可欠という情勢になり、「後任は安部前首相かな」と思っていたら、「安部氏は中止の可能性があるので、固辞している」という噂もあり、それじゃ「橋本聖子か」などと思っていたら、「川淵三郎が受諾」というニュースが流れた。先週の木曜日は、各メディアとも「川淵新委員長で決着」ということで、川淵氏の経歴などを紹介する報道が目立った。

 うっかりその時点では「なるほど、川淵氏は前回の東京五輪に出場しているし、Jリーグの初代チェアマンやバスケットボール界の内紛を収めるなどの功績もあるから、確かに最適な人事だ」などと思ってしまった。川淵三郎と言えば、サッカー関係者や古くからのサッカーファンには、ドイツW杯後のインタビューでオシム次期監督の名前を漏らした事件や、フリューゲルス解散時の無慈悲な対応、我那覇のドーピング問題など多くの独裁的な言動や決定に怒りを覚える者も多いが、一方で、あの閑古鳥が泣いていたサッカー界をJリーグ創設に導いた功績は評価せざるを得ないと思うことも事実。サッカーブログ「武藤文雄のサッカー講釈」に「川淵さん、この仕事はあなたには向いていません」という記事がアップされたが、この評論はまさにサッカーファンの気持ちを代弁している。

 たぶん多くのメディアも、日本的にはこんな決着もやむを得ないと思い、川淵氏歓迎のニュースを流したことと思う。だが翌日の新聞を読むと、若い人の感想として「川淵さんって知らない」というコメントがあり、若い世代には川渕三郎も知られていないという事実に気付かせられた。三浦カズならまだわかるだろうが、釜本や奥寺だともう知らないかもしれない。ましてや川淵なんてその前の世代だし、私もJリーグ発足の話が出るまで、川淵三郎という名前は聞いたことがなかった。私が知っているのはメキシコ五輪銅メダル以降の選手たちだ。

 一方で、「問題発言で辞任する森氏が後任人事を決めるのはおかしい」とか、「委員会規定の正式な手続きに基づいて決定すべき」といった意見もあったが、「最終的には正式な手続きを踏んで、川淵氏の委員長就任も進められるのだろう」と考えていた。所詮、日本はそんな国だ。さっそくYahoo!の「みんなの意見」に「川淵氏に何を期待するか」という質問が出て、「何を期待するのか不明。まさか『次の舌禍』を期待するのか。火中の栗を拾い損ねた安部氏は、ヒーローになり損ねた。」とコメントを書いたが、今「みんなの意見」を見ると、そんな質問をしたことすら消し去られている。酷い態度だ。

 だが、結局、川淵氏がしゃべり過ぎたのか(まさに『次の舌禍』)、ツイッター等での批判が官邸の耳に入り、武藤氏から川淵氏に電話が入って、川淵氏から「委員長就任を辞退する」旨の声明を出すこととなった。13日の中日新聞朝刊には「密室の禅譲 政権認めず」という見出しが掲げられ、「本当に政権が『密室の禅譲』を否定したのだったらすごいな」と思ったが、その後のニュースなどを見ると、「いったんは川渕氏就任を認めたものの、世論の批判を見て、判断を変えた」ということのようだ。なんだ、そんなこと。それにしても、本当に世論の動きを見て方針を変えたのか、それとも裏で他の動き(例えばアメリカからのご注進とか)があったのか。ちなみに「東京五輪森喜朗舌禍事件の意味:田中宇の国際ニュース解説」では、来冬の北京五輪と絡めて考察しており、興味深い。

 いずれにせよ、今回の一連の騒動を見ていく中で、自分がいかに古い社会観を持っていたかを実感してしまった。いったんは川渕氏新会長就任ということで歓迎報道をした多くのメディアにも同様の反省をしてほしいが、こちらは昨日・今日と後任人事当てに奔走している。これを機に日本の報道も変わるといいと思ったが、そんなことは期待できそうにない。少なくとも私にはもうこの騒動が今後どんな展開になるか読めない。どんな結末になっても驚かない。自分はもう時代の流れに乗り切れない古いタイプの人間だと自覚した。