とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

フットボール批評issue31

 今号のテーマは「コンセプト」。でも、サッカーにおけるコンセプトって何だ? チーム経営のコンセプトなのか、サッカー内容についてのコンセプトなのか。どういうサッカーを目指すかというのは、フロントが決めるのか、監督が決めるのか。本書を読んでも、よくわからない。連載「スポーツ文化異論」を書く武田砂鉄は「コンセプトなんてものは、騙し合いのとっかかりにすぎない」(P117)とまで書く。ただしこれは本や雑誌の企画コンセプトの話。

 もちろん、育成型チームを目指すのか、地域密着型のチームか、といった方向性はチーム毎にあるだろうが、それらはその時々にチームの置かれた状況によっても異なる。また強いコンセプトを持っていたからといって、絶対成功するわけでもない。明確なコンセプトが提示されていた方が、選手にとっても、チーム関係者にとっても、わかりやすいということはあるだろうし、経営責任者や監督を務める以上は誰もが何らかの方向性は持っているだろう。たとえそれがはっきりと提示されなかったとしても。

 今号では、エスパルスヴォルティスセレッソなどのコンセプトが提示・紹介されるが、それぞれの事情の中で考えられた結果なのだろうから、それに対してどう考えていいのか、わからない。クリアソン新宿などの地域クラブ作りのコンセプトも理解はするが、それが結果的に成功するかどうかもわからない。そもそも何が成功かもわからない。ただ、「PDCAサイクルトップダウンの効率追求型モデルで、創造性を生み出すものではない」という文章は興味を引いた。代わりに、「SECIモデルだ」というのだが、それについては勉強もしていないし、よくわからない。

 同様に、岡田メソッドや風間八宏の「止める・蹴る」も、ある意味、FC今治セレッソで取り組まれているローカルで実験的な取り組みではないかという気もする。明確なコンセプトの提示は目を引くが、常にそれが正しい訳ではないのではないかという疑いが消えない。

 それで、今号で最も面白かった記事はというと、「『サッカー本大賞2021』の一次選考レポート」だったりする。今年はほとんどサッカー本を読んでいない。それでノミネートされた本も一つも読んでいなかった。ちなみに「フットボール風土記」は、先号のプレゼントに応募したら当選して、送られてきた。どうもありがとうございます。これから読みます。その他の候補作品も特に文芸モノは面白そう。さっそく図書館で予約した。

 今年もJリーグが始まった。今はフロンターレグランパスが飛び出した感じだが、次号が発行される6月にはどういう順位になっているだろうか。主要ヨーロッパリーグは閉幕し、優勝チームも決まっているはず。東京五輪は開催されるのだろうか。新型コロナ禍、サッカーも先が読めない状況が続いている。次号においても、いつものように、普通にサッカー談義ができることを願いたい。次号にも引き続き期待したい。

 

フットボール批評issue31 [雑誌]

フットボール批評issue31 [雑誌]

  • 発売日: 2021/03/08
  • メディア: Kindle
 

 

○サッカーは2局面に分かれています。ひとつは自分たちがボールを持っている時、大事なのは次で、相手がボールを持っている時。日本ではこれを守備と言いますが、ドイツではそうは言いません。相手がボールを持っているだけで、『ボールを奪って攻撃するんだ』=ボールを奪う攻撃ということです。つまり、どちらの局面でも攻撃であり常にゴールに繋がっていて、だからボールが相手ゴールに近い時にゲーゲンプレッシングの発想が生まれるのです。(P20)

○現在の森保一がピッチ上で具現化しているサッカーを見ると、その内容は「Jリーグで勝つために最適化されたガラパゴスサッカー」と呼びたくなる…しかしJリーグの最適解はアジアですら限界を迎えつつある。一昨年のアジア杯決勝ではカタールに現代的なポジショナルサッカーを展開され…まったく歯が立たなかった。…「Japan’s Way」というガラパゴス戦術の行く先は世界への挑戦権どころかアジアでも覇権を握れない時代が待っているかもしれない。(P71)

○コンセプトに基づいてクラブを作りたい時、ビジネス側のフロントと呼ばれる人たちが仮にコンセプトを決めたとしても、ピッチ上の実際のサッカーに落とし込むことができません。…ただ、逆であれば可能性があるのではないかと考えています。つまり、現場の監督がビジネスをやる……ベンゲルファーガソンはそれをやっていたのではないかと思います。監督がコンセプトを持ってピッチ上でサッカーを表現し、さらにビジネス側にもそれを展開して……と。(P90)

○SECIモデルとは、組織に蓄積されている個人「暗黙知」を「形式知」に変換し、それらを「共同化」「表出化」「連結化」「内面化」の4ステップで循環させていく、戦略的な知識創造の枠組みです。…「PDCAサイクルは(中略)基本的にはPlanから始まります。…組織においてPlanというのは…トップダウンなんです。…こういう効率追求モデルからは、創造性は生まれません。PDCAサイクルは新しいアイデアやコンセプトを生み出すモデルではないのです。(P94)

○結果が出れば、あらかじめのコンセプトなんてどうだってよくなるし、結果が出なければ、コンセプトがどれだけ素晴らしくても、文句を言われるのだ。…結果がすべて、になればなるほど、当初のコンセプトの提示って、その意味がどんどん薄まっていく。…予定は予定なので、実際は変わる。願望は叶えられるとは限らない。コンセプトは崩れる。その時に、正しい考察を向けるには、やっぱり外の目線が大事なのである。(P115)