とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

フットボール風土記

 宇都宮徹壱が地方のサッカークラブを回って取材を重ねていることは知っていた。Jクラブを目指すチーム、あくまでアマチュアの企業スポーツであり続けるチーム。色々なチームがあることは理解している。しかし、コロナ禍が続く中、サッカークラブのあり方も変わるのかもしれない。「あとがきに代えて」で書かれているが、本書で取り上げるFC今治いわきFCなどは「第3世代」。だが時代は既に「第4世代」、福山シティFCやクリアソン新宿のような、コロナ禍に適応し、一般企業によるスポンサー支援だけに頼らないクラブ運営が始まっている。

 福山シティFCの岡本代表が言う「令和型戦略」が何かは、まだはっきりとは見えてこない。先の「フットボール批評issue31」で引用した「SECIモデル…」の記述は、クリアソン新宿のキャプテン井筒陸也と鎌倉インターナショナルFC監督兼CBO河合一馬との対談の中の文章。たぶん井筒の文章だと思うが、こうした経営理念の下で新たなサッカークラブが生まれ、運営が始められている。

 もちろん、一方で昔ながらの泥臭い企業スポーツの道を敢えて選択し続けるクラブもある。それも構わない。しかし時代は大きく変わりつつある。何が成功するかではない。色々な形がサッカーというスポーツの場で試みられていること。そのことが面白いし、それを追うことには意味がある。サッカージャーナリズムの発表の場が限られてきていると窮状を訴えているが、地方クラブの行く末をルポタージュするという仕事の意義は大きい。さらなる活躍を期待するとともに、これからも本という形での発表の場があり続けることを願っている。

 

フットボール風土記

フットボール風土記

  • 作者:宇都宮徹壱
  • 発売日: 2020/11/13
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

○女川の水産加工メーカー、高政。…高政は、コバルトーレ女川が立ち上がった時からのスポンサーであり…震災直後は…社員全員の雇用を守り通したことでも知られている。…「いつか自分の限界を知って、現役をあがる時…ほとんどの選手が『引退しても、ここで働けますか?』と聞いてくる。…今では管理職の中にも、コバルトーレの元選手がいます。…こっちの女性と結婚して家庭を作り、女川に定住するケースも珍しくないですね」(P75)

○時おり「岡田武史はいちからクラブを作った」という言説に接することがある。これは明らかに誤り。…今治市…旧大西町に1976年に設立した大西サッカークラブこそが、FC今治の源流である。/やがて…今越FC…さらに09年には愛媛FCしまなみと名称変更…12年から現在のFC今治として独自の活動を開始することとなる。/それから2年後の14年11月、岡田武史がクラブ代表に就任。ここから、現在のFC今治の歴史がスタートする。(P92)

○吉田は最初から「次は女性監督で」と心に決めていたという。/「実は鈴鹿は市長をはじめ、教育長や商工会議所のトップも、みんな女性なんですね。だったら、鈴鹿のサッカーチームを女性監督が率いるのも、ありじゃないか。もちろん、話題性というのは考えました。その一方で、UEFAプロライセンスを持っている男性だったら、われわれの限られた予算では来てくれなかったでしょう。そういった事情もありました」(P178)

○福山シティFCでは「令和型戦略」が合言葉になっている。このコロナ禍で、従来のスポンサーシップが通用しなくなりつつある…福山シティFCは、新興クラブゆえに、従来とは違った戦略をコロナ以前から模索していた。…これまでなら行政や政治家とのコネクションは大事だった…でも、今の時代はSNSもあるし、リモートワークで距離も関係なくなりました。そうなると地元の福山だけでなく、全国を市場として捉えることが可能となります。(P257)

岡田武史は最近のインタビューで「もしもこのままコロナ禍が続いたら、スタジアムの考え方が根本から変わる可能性もある」と語り、そうなれば「Jのライセンス基準にも影響があるかもしれない」と指摘している。/これまでのスポーツビジネスは、いかにスタンドに密の状態を作るかが大前提であった。…その大前提が音を立てて瓦解しつつある。…今後はJリーグ参入のために巨大なスタジアムを作る必要さえ、なくなるのかもしれない。(P280)