とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

ほんとうのリーダーのみつけかた

 私はこの本をいつ知ったのだろうか。中日新聞の書評欄を検索すると、実にほぼ1年前、昨年の8月に本書の書評が掲載されていた。昨年の7月に発行されている。それからしばらくして図書館で予約をしたのだろう。それから長い時間が経った。ようやく順番が回ってきた。予約した時にはずいぶん多い予約数だったのに、届いた時には次の予約はない。私が一番ビリだ。

 書評に何が書かれていたのか、すっかり忘れていた。タイトルを見て、「どうしてリーダーを見つける必要があるんだろう?」と思った。本当のリーダーがいないのなら、それで仕方ないのではないか。だが、読んでみると、筆者の言う「ほんとうのリーダー」は違った。それは「自分自身」のことだった。リーダーのように振る舞う人に振り回されず、しっかり自分を持って、自分の中にリーダーを持つこと。そうして初めて、主体性を持って群れの中に入っていける。社会の一員となるとはそういうこと。「敗者であることを素直に認める」というアドバイスもいい。そこから「もっと新しい、清々しい世界が開けていく」という示唆は自分を勇気付けてくれる。そして「吉野源三郎ヒューマニズム、人間中心主義」に信頼を寄せる。

 本書は、吉野源三郎の『君たちはどう生きるか』を意識して書かれた『僕は、そして僕たちはどう生きるか』の文庫本が発行されたタイミングで開催された若い人を対象にした講演会を記録したもの。表現も易しく、論理も明快なのは、そういう事情による。でも、「ほんとうのリーダー」は「自分自身」ということはもう少しはっきり書いて(話して)くれてもいいのではなかったか。そしてタイトルも少し紛らわしい。でもいい本だ。

 これまで梨木香歩という名前は知っていたが、読んだことはなかった。少し読んでみてもいいかなと思った。年代もそう変わらない。高齢期に差し掛かったこの年代の人々の多くは同様のことを考えているのだろう。もっと人間を信じたい。でも信じられない。せめて自分だけは信じて生きていこう。そうでないとやっていられない。やはり今は『君たちはどう生きるか』と同じ時代状況なのだろう。盛大かつ空虚に五輪の開会式が開催された。式典よりも見たいのは、競技そのものなのに。

 

 

○形容する言葉は、じつに使い方が難しいです。大きな容量のある言葉を大した覚悟もないときに使うと、マイナスの威力を発揮します。…効果がないばかりか、じつに逆効果なのです。…こういう言葉遣いをするのは現代の政治家に多い。…今の政権の大きな罪の一つは、こうやって、日本語の言霊の力を繰り返し、繰り返し、削いできたことだと思っています。それが知らないうちに、国全体の「大地の力のようなもの」まで削いできた。(P15)

○あなたの、ほんとうのリーダーは…「自分のなかの目」…自分のなかの、埋もれているリーダーを掘り起こす…。それは、あなたと、あなた自身のリーダーを一つの群れにしてしまう作業です。…これは、個人、ということです。/そして、群れというのは本来、そういう個人が一人ひとりの考えで集まってできるものであるべきだと思っています。…盲目的に相手に自分を明け渡さず、考えることができる個人。(P29)

○尊厳を感じさせ、かつ優雅である負け方にはいろいろあります。…まず、敗者であることを素直に認める。…そして、劣位にある自分、ということをしばらく味わいましょう。…そうすると、自分が「その分野では」劣位にあるのだ、…自分の全存在が劣位にあるのではない、ということも客観的に認識できます。…自分の軸足は揺らぎません。それどころかもっと新しい、清々しい世界が開けていくはずです。(P46)

○強すぎる政府、多数を占める組織の決定したことに対する無力感が日本全土を覆っているように思っていた。加えてインターネット等に囲まれて成長する情操への不安。だが、世の中があまりに極端に走るとき、必ずそのバランスを取ろうとする力も生まれてくる。そのようにして、吉野源三郎ヒューマニズム、人間中心主義を私たちがもう一度必要としている。(P58)