とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

むずかしい天皇制☆

 天皇制はどう生まれ、なぜ明治維新や新憲法後も廃止されることなく存続し、どんな機能を果たしているのか。日本人にとって天皇制とは何か。社会学大澤真幸憲法学者の木村草太がそれぞれの知見を寄せて語り合う。

 第1章は「現代における天皇制の諸問題について」。象徴とは何か。天皇制の「積極的機能」と「消極的機能」とは何か。天皇制にとって正統性はどこから生まれるのか。天皇が持つ正統化機能とはいったい何なのか。木村草太が語る憲法学からの知見が興味深い。

 一方、第2章からは「歴史としての天皇制」を語る。こちらの主役は大澤真幸天皇の誕生から、中世、近世。徳川政権は天皇制を廃止しようと思えばできたにも関わらず存続させ、結果的に朝敵となって倒れる。明治維新から敗戦までを議論の対象とする第3章「近代の天皇制」では、「アイロニカルな没入」を例に、誰も信じていない天皇を活用して統治を図る明治憲法とそれが軍部に利用されていく過程を語る。

 そして第4章「戦後の天皇制」では、日本国憲法検討過程における天皇制の議論について。国体や天皇制の維持ばかりを議論し、天皇制の存在理由や日本においてどんな民主主義を実現するのかという議論はされなかった。国民主権基本的人権は与えられたもので、「むしろ負けたことの証なんです」(P309)という言葉は重い。

 天皇制とは何なのか。今、天皇制を廃止したとて、皇族が生きている限り、天皇家権威のコントロールは難しい。結局、我々日本人は天皇制とともに生きていくしかない。天皇制は日本にとって、大きな火種であるとともに、種火でもある。そのことを理解し、コントロールはできないまでも、目を離さずにいることが必要かもしれない。本のタイトルのとおり、確かに天皇制は「むずかしい」。そのことをどれだけの国民が理解しているだろうか。感情を交えず、冷静に議論することが求められる。

 

 

○【木村】天皇制を廃止したからといって、天皇家がこの世から存在しなくなるわけではなく、民間の天皇家になるだけです。この民間天皇家の権威は、日本政治の攪乱要因になる可能性がある。たとえば、選挙で天皇が、「この候補を公認する」と応援したらかなりまずいでしょう。…そんなことになるくらいなら、天皇制で囲っておいた方がいい。…消極的機能だけでいくなら、いっそ天皇は象徴としての行為はやらないほうがいい。(P43)

○【木村】天皇制度自体は…「いい人がいれば上手く機能する」という人格に依存した制度でありながら、皇室典範日本国憲法も、「天皇は形式的なことしかしないから、どんな人でもいいだろう」という発想でできている。いい人じゃないと機能しない制度は…たくさんの候補者がいるなかから能力のある人を抜擢する仕組みの下でないと機能しません。それなのに…天皇世襲とし、天皇候補者を限定しています。積極的機能を果たしてもらうのに適した制度設計ではありません。(P59)

○【木村】憲法制定過程で…当然語られるべきことが、語られてこなかったことに気づきます。/一つは、何のために天皇制を残したのか。…天皇制の存在理由は、公式には…無目的なままです。…もう一つ、…憲法は民主主義の理念に基づいて日本を運営するように求めていますが、民主主義とはどういうものなのか、どんな民主主義を実現すべきなのかについて、ほとんど議論されませんでした。(P303)

○【大澤】天皇制や国体を護持しようとしてきた人たちは、本当にそれが何であるのか、何のためなのかわかっていなかったのではないか。…必死になって守っている以上、大事なのです。…日本人が全力を尽くして守ったのが…平和主義でも民主主義でもなく、天皇制だった。…民主主義や平和主義、基本的人権国民主権の獲得は、革命があった国にとっては勝利の証です。しかし日本の場合…むしろ負けたことの証なんですよね。(P305)

○【大澤】日本人にとっての意思決定は「空気」です。…日本人は空気が存在していることに、絶対の確信を持っている。…天皇こそが空気の存在の究極の条件で、天皇の判断と空気とが同一であることが先験的な前提になって…機能している…。空気があるから発見されているのではなく、空気が必ずあると思いながら生きているから、結果的にはある。空気があることの最後の保証として、日本人には天皇がいるのだと僕は思っています。(P327)