とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

フットボール批評issue34

 今号の特集は「教養としての現代サッカー」と「新しい現代サッカーの教科書」。冒頭に、前号から連載が始まった河岸貴の「現代サッカーの教科書」と庄司悟の「フットボールの主旋律Op.2」が掲載されているが、正直、つまらない。「有効性」よりも「効率性」を重視するというナーゲルスマンの戦術は理解できるが、それを大層なものとして扱う書きぶりが気に入らない。それよりはもっと具体的なプレーに即して語る柴村直弥の「現代サッカーを言語化する」や現代サッカーにおけるCBとSBについて語る「真の現代CBとは何か?」の方がわかりやすい。龍岡歩の「現代5レーン征討」も興味深い。

 また、井筒陸也と山田大記の対談で始まる「『現代サッカーとは何か?』を考える」が、連載が進むにつれて、内容が具体的でわかりやすくなってきた。「連載&コラム」では、岩政大樹の「デザインフットボール『言葉』を掘る」の「日本は積み上げ型、欧米は逆算型」が具体的で興味深い。新連載「フットボール経歴マニアックス」にも期待したい。

 

 

○ナーゲルスマンはドイツ語で言うeffektivitai(有効性)よりもeffizienz(効率性)を重視している…。労を惜しまずリスクを背負って効果を出すことよりも、無駄な負荷を避け最小限の出力で効果を出すことに注力を傾けている…。ナーゲルスマンが掲げる「効率性」を重心に置くコンセプトが進行していくことで…消える用語が「攻守の切り替え」=「トランジション」である。(P20)

○一時はその使い手の筆頭であるシティが…無双状態だった5レーン戦術。しかし次第に対抗する守備戦術も進化し…もはや「諸刃の剣」にもなりうる状況が生まれ、拮抗してきているようにも見える。…欧州を席巻したかに思えた5レーンもまだまだ進化の余地が残されているということだろう。つまり「現代5レーン征伐」とは欧州で起こっている戦術進化の激動をわかりやすく顕在化させた事象ともいえるのである。(P47)

○(メキシコ)ロサーノ監督…がよく言う事で僕がすごいなと思うのは、「自分のコーチングスタッフは全員自分より優れたものがある人じゃないとダメだ」と。自分より優れた人を選ばないと、自分がそこで止まっちゃうからって。…周囲には常に学べるものを持っている人を選び、そこからうまくまとめていくのが、彼の監督としての哲学です。(P70)

○戦術が多い=制限が多いというイメージがありますが…攻撃は戦術があればあるほど誰がどこにいるかわかるのでやりやすくなります。…戦術の理解があれば相手だけ見ておけばいい。さらに…ボールを持っている選手には自由が与えられているので、思ったより自由にやれる…。戦術があるとクリエイティビティが高まるのはそういう意味だと思います。(P117)

○日本においてスポーツが…道として根付いていることによって…正しい意味でシステムに働きかけることができなくなっている。…西洋人の場合、まず個人があってその次に組織がある。…するとそこには強力な秩序が必要になる。…一方で日本の場合の組織はまず社会的な意味で秩序が形成されている。…サッカーが始まる前にサッカー以外の要素によって組織というものが穏やかに形成されてしまっている…つまり、ルールも戦術も極論不要なのだ。(P121)