とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

フットボール新世代名将図鑑

 今、もっとも注目を集める監督と言えば、ナーゲルスマンだろう。本書では、2章「未来を担う二大巨頭」で、ナーゲルスマンとラインダースを取り上げる。ラインダースって誰?と思ったが、クロップの下でリヴァプールのアシスタント・コーチを務める38歳のオランダ人。「新世代名将」というタイトルだが、監督だけでなく、著名な監督の下で、アシスタントコーチなどとしてチームを支えているスタッフの紹介も多い。また、指導者に転身したかつての名選手の現状も多く紹介されている。また、こうした指導者が続々と誕生するドイツの指導者教育の現状などを報告するコラムも興味深い。

 第1章では戦術的ピリオダイゼーションやポジショナルプレーについての説明もされているが、素人には正直、わかりづらい。第3章以降にはプレミアリーグブンデスリーガなどリーグ別に若手指導者の紹介、さらに第7章では欧州4大リーグ以外の南米などの監督・指導者も紹介されている。筆者の目から見て、日本の若手指導者はどのように映っているだろうか。おこしやす京都の龍岡歩のように、戦術面などをサポートする類の指導者はいないだろうか。

 本書が出版されたのは昨年5月。当時はライプツィヒの監督だったナーゲルスマンがバイエルンの監督になり、シャビもバルセロナの監督に就任した。変化の大きい世界だけに、この種の本は賞味期限が短い。それでも今後、若手指導者が監督に就任した際などには、本書を見ると評価が掲載されているかもしれない。その意味ではまさに「図鑑」。でも彼らを知らない状態で読むと、なかなかイメージが伝わりにくい。非常にマニアックなだけに、書店ではなかなか手が出ない類の本ではある。

 

 

○攻守を流動的な概念と解釈するポジショナルプレーにおいて、攻撃と守備は一体化している。だからこそ、ポジショナルプレーの目的は「自軍が攻撃しやすく、敵軍が攻撃しにくい」局面を常に作り出すことになる。ポジショナルプレーは単なる攻撃の概念ではない。常に変化していく状況において、自分たちを「組織化」していくと同時に、相手の組織バランスを「崩壊」させる。それを実現するには、すべての選手が状況に応じて役割を切り替えていく必要がある。(P54)

○ヴァルターの思想において、最も特徴的なのが「中盤の底でプレーするMF」であるアンカーを配置しないことだ。彼はまず、最もボールが集まるスペースであるDFラインの前から選手を排除する。そして、そのスペースを使うのがCBだ。作ったスペースに中盤が下がってくることは珍しくないが、CBが前方向に出ていく戦術は少ない。…「前向きのプレッシングを狙う相手チーム」の背後にCBが侵入する。…ヴァルターはこのスタイルで相手チームを翻弄していく。(P183)

○マルセル…の主たる仕事は、対戦相手のスカウティングだ。対戦相手のスタイルについて詳細に調査し、試合中のシナリオを予測しておく。監督やコーチがどのように対処するかも考えていく必要があるように、もはや求められているのは未来予測に近い。(P192)