とんま天狗は雲の上

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タリバン 復権の真実☆

 昨年8月、アメリカがアフガニスタンから撤退し、再びタリバン政権が復活した。タリバン復権によるイスラーム原理主義による政治運営に対して、女性差別や女子教育の停滞などの懸念が語られたが、その後はコロナ禍やウクライナ情勢などもあって、現状のニュースが入ってこない。タリバン復権によってアフガニスタンはどうなっているのか。その疑問に、かの国の歴史から説き起こし、北部同盟アメリカ傀儡政権がいかに汚職にまみれ腐敗した政治運営を行っていたか、タリバンがいかに民衆に支持されたか、そしてアフガニスタンの未来について、ムスリムとして腹蔵なくタリバン幹部と会話してきた筆者がわかりやすく丁寧に解き明かす。

 第1部「タリバンの復活」は筆者による解説。そして第2部「タリバンの組織と政治思想」には、筆者が翻訳したタリバンによる2つの公表論文が収められている。まず、第1部では、アフガニスタン復興のために投じられた支援金が、傀儡政権のみならずアメリカの軍産学複合体やメディアなど、さらには驚くべきことに国連機関やNPOなども競って「中抜き」し、アフガニスタン国民にはわずかにしか届かなかったという事実に驚く。何と国連さえもという信じられない現実。

 また、第2部で紹介されるタリバンの論文では、民主主義を国を分裂させるために持ち込まれた諸悪の根源だとしている点に驚く。確かに、イスラーム原理主義からすれば、民主主義とは神よりも人間を上に置く不遜な体系であり、自由を絶対視し、たとえ悪であっても多数決さえ抑えれば正義となってしまう邪悪な制度である。そして女性蔑視と批判される男女差別でさえ、イスラーム的観点からは女性を尊敬するが故の考え方だと正当化される。

 正直、一理ある。地球上に多くの民族が存し、多様な文化がある中で、西欧流の民主主義や自由・平等が絶対に正しい訳ではない。しかしこうした多様性を理解せず、世界で独尊的な価値観を押し付けて回るアメリカ。ちょうどこの文章を書いている時に、タリバンが女子教育の開始を延期したことを批判する政府コメントがアメリカから発せられた。あれほどのひどいことをしておいて、どんな顔をしてこんなコメントを出せるのだろう。まさに厚顔無恥。しかもウクライナ紛争を見ると、今後のアメリカの出方が強く懸念される状況でもある。

 タリバン復権アフガニスタン紛争が完全に終結したわけではない。彼らの戦いは今後も続く。筆者らが期待、いや祈るように、タリバン復権が今後のアフガニスタン、そして世界に、互いの違いを尊重し合う多元的で平和な国際関係が構築される、その第一歩であってほしいと願う。タリバンの真実がここにある。

 

 

アメリカの政策決定者たちはカルザイ政権が腐敗した傀儡であり政権担当能力がないことを知った上で、「上前を撥ねて」自分たちの利権を確保するために、アフガニスタンの政府高官たちの汚職に加担しており…大学、シンクタンクなどもそれを見てみぬふりをしてきた。(P40)

○衰退しつつある超大国アメリカと20年にわたって戦い抜き、ついには単独講和を結び、新たな覇権国中国からは真っ先に承認を取り付けた…タリバンは、帝国の再編の時代となる21世紀に…イスラーム帝国の復興の牽引車となり、イスラーム文明が西欧文明、中華文明、インド文明、東欧ロシア文明と対峙するフォルトラインとして、地政学的・文明論的緩衝地帯となることができるのか。行く手は険しくとも主の導きと加護を祈りたい。(P130)

○民主主義…立法の源泉は人間の妄執と思念であり、それは重要な2つの原理の上に成り立っている。…即ち合法と禁止の最高主権が人間にあり…この主権より上位…のいかなる他の主権も認めない…。そして…他人の自由を脅かさない限り、自分が欲するあらゆることを為さしめる…そこでは全ての権利における人類の完全な平等がある…が、善とは多数派が善とみなすものであり、悪とは多数派が悪とみなすものであり、宗教がそれを認めようが、認めまいが無関係なのである。(P191)

○既得権を手放さないために…旧システムの維持に汲々とする欧米先進国と…ゲームのルールを変えようと謀る中国、ロシアなどの地域大国が、利害打算で地域ブロック化して離合集散する…弱肉強食の世紀になるか、それとも他民族、多文化、他宗教が共存する知恵を育んできた長い歴史を有するそれぞれの文明に、再び命を吹き込むことで甦った新たな「帝国」が共存する未知の可能性が開花する時代になるかは、我々の決断にかかって…いる。(P255)

タリバンと欧米諸国の関係は、かなりの点において「水と油」である。力ずくで混ぜても、いつか分離して溶解することはない。…具体的には、世俗主義民族主義、民主主義、自由主義などのイデオロギーとの親和性がないのである。…油が燃えているところに、水をかけると余計に火が飛び散るのを同じで…イスラーム圏を力で押さえつけようとして、かえって火が燃え広がったようなものである。(P274)