とんま天狗は雲の上

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この国の「公共」はどこへゆく

 文部科学省OBの寺脇氏と前川氏。その前川氏と中高時代の同級生でラグビー部でも一緒だった城南信用金庫元理事長・現名誉顧問の吉原氏の3者による鼎談の記録。寺脇氏と前川氏が長く教育行政に携わった立場から「公共」を語るのに対して、吉原氏は金融マンだが、信用金庫は銀行とは違う「公共的使命を持った金融機関」のトップに立った経験を踏まえ、「公共」を語る。そして、その吉原氏の発言が面白い。単に公共を意識して仕事をしていただけでなく、同時に民間の立場も熟知している。そして現政権(鼎談当時は安倍政権だったようだが)に対して、はっきりと否定的な意見を口にする。痛快だ。

 「この国の『公共』はどこへゆく」というタイトルだが、現在、「公共」はすっかり「私物化」され、それが正しいかのような言説がまかり通っている。ものを考える人はバラバラとなって力を持ちえず、何も考えない者たちが、権力を目指すという1点で糾合し、多数派となっている。日本維新の会の2022年活動方針が、「選挙に勝ち、野党第1党になる」ということだけで、政策的な事項が一切書かれていないと批判されているが、まさにこのことを示している。

 何はともあれ、まずは自分の頭で考えること。そして他者の意見を尊重すること。そこから「公共」も生まれ、「公共」の中で安心して生きることができる。今の「公共」の状況では、単に他者の奴隷になるだけだ。ウクライナのように「市民の盾」として使われるだけだ。「公共」はあなたのものではなく、私のもの、みんなのものでなくてはいけないはずなのに。

 

 

○【吉原】「私は公共的な仕事がしたいので銀行に勤めたいと思います」と就職の場で言ったら、きょとんとされた。…勘違いも甚だしかった。銀行も利益だけを求めていた。そして信用金庫も同じだろうと思っていたら、城南信用金庫の…小原鐵五郎という人が「信用金庫は銀行に成り下がるな」と言っているのを知ったのですね。/話を聞きに伺うと、信用金庫というのは公共的使命を持った協同組織金融機関である、「世のため人のため尽くすことが我々の使命だ」とおっしゃるのですよ。それを聞いて…入職しました。(P46)

○【吉原】不況の原因は昔から、詰まるところグローバリゼーションなんです。大恐慌から世界大戦に向かう時もそうだった。それなのにまたグローバリゼーション万歳でやってたら同じことになります。大恐慌の歴史を繰り返さないように政策を選択して、みんなが正気を保てるような世の中を作ろう、そのためには強い者も弱い者もみんなで助け合わなければいけないという責任感をつくっていくのも現実的な平和教育だと思うのです。(P77)

○【吉原】そもそも株主の利益を中心に追及する株式会社組織では、関わる人々すべての幸福はもたらし得ないという反省から、協同組合運動というものは始まっているのです。…お金を中心として考える「自由な」マーケットがよくない、そこで「自由」なのは強者、金持ちだけだから、というところからスタートしている。信用金庫は金融機関だけれども、強者のための「自由な」ゲームに与するものではない。…その人が本当に幸せになれるかどうかを考えて融資をしなくてはならない。(P88)

○【寺脇】家族ですべて支えなさいという考え方は…もうやめたはずなんです。かつて家族で支えることの最たるものが育児と介護だった。介護はもう介護保険制度も使ってやりますということになったのだから、育児にももっと公助の役割が大きくなるべき時代なのだと思います。(P151)

○【吉原】今の世の中は大きな公が全部を支配して圧迫しているかのように見えますけれど、実は逆で、私的な意見が勝手に公権力を私物化することで「私」がまかり通ってる社会なんですね。…封建社会でも公と私という観念はあったはずなのに、今や近代社会になったにもかかわらず私的領域がとうとう国家権力にまで及んでしまった。(P160)

○【前川】野党がばらばらに見えるのには、やっぱり理由がある。自分で考える人は一人ひとり違う風に考えるからだと思います。…一方、権力を握ったり利権に近づくことだけが目的になっている人たちは、力のあるところにぎゅーっとくっついていく方法と態度だけを考えればいい。…ものを考えずに大きな塊になっちゃう人が、社会のどのレベルでも多数になっている気がします。(P223)