とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

デジタル・ファシズム

 一昨年来のコロナ禍では、台湾や韓国、中国などに比べて、日本のデジタル化の遅れが指摘された。そうした状況の中、昨年5月にはデジタル庁が発足した。マイナンバーカードの普及はそれ以前から強く勧められ、昨年秋からは保険証との連携も始まった。ポイント優遇などによるキャッシュレス化の推進もしばらく前から進められている。小学校での一人1台パソコンの配布は昨年春には実施され、大学ではコロナ禍におけるオンライン授業が一般的に実施された。政府を中心に、日本社会のデジタル化が今、強く推進されている。しかしこうした政策の行く末はどうなっていくのだろうか。

 本書では堤未果が、アメリカを始め世界各国で進められたデジタル化の状況とその顛末などを広く紹介し、その弊害について警鐘を鳴らす。何より、デジタル化の何たるかをほとんど理解しない首長や政府高官が、IT企業や覇権を目指す大国に言われるまま、デジタル化の旗を振っている現状に大きな危惧を覚える。

 もちろん、このブログも、IT化の恩恵を受けている。仕事にせよ、私生活にしろ、私たちはIT技術進展の恩恵のもとに今の生活がある。だが、それはあくまで私たちが使うという前提だ。だが知らず知らずの間に、私たちはGAFAなどIT企業に使われ、誘導されている。そのことをもっと自覚し、意識した上で、デジタル技術を使い、使われなくてはならない。IT絶ちなどは困難だし、それでは不便だ。だが、ITの暗黒面は知っておく必要がある。

 今朝、私のスマホに友人から「ビデオに写っているのはあなたですか」というメッセージが届いた。スパムだ。気を付けよう。個人として、デジタル・ファシズムに抗する術は多くはないけれど、その特性をよく理解することで、安易に彼らの手に載らないことができるだろう。「現実と事実と真実」という記事を少し前に書いたが、改めてそのことを思い出そう。

 

 

○「いかなる組織も人民も政府が応急すれば全てのデータを提出しなければならない」という中国の国家情報法。デジタル化を通じて私たち日本人の個人情報という資産を売り渡す「日米デジタル貿易協定」。そして米政府が要求すれば企業の持つデータがいつでも開示される「クラウド法」。/デジタル化に向かう日本は、米中政府とGAFA、BATHに包囲されている。(P37)

○デジタル化が進めば進むほど、人間は分断されていく。/時間や空間の制限を超えるこの技術によって、私たちは今、良くも悪くも仮想空間に分けられて、違いを超えた他者の姿がよく見えなくなってしまった。/そこでは社会から存在を消された人たちと団結したり、理不尽な扱いを受けている人々が、お互いに苦しみや怒りを分かち合い、共に行動を起こす可能性はほとんどない。…行政がデジタル化されると、自らの意思とは関係なく、仮想空間の中で真っ先に国に個人情報を管理され、プライバシーを奪われる。(P65)

○日本の私たちが、デジタル政府の軸となるマイナンバーと個人情報の紐づけや、国がそれを管理することに大きな不安を感じるのは、進化したデジタル技術そのものではなく、政府と国民の間に根強く横たわる不信感のせいだろう。/デジタル政府に必要なたった一つのこととは「公共」の精神なのだ。…大企業からの非正規出向社員より、その自治体に奉職し地元に貢献する意欲を持つ職員を高度人材として確保できるよう…予算を投じるべきだろう。(P94)

○「この子はこれが苦手だけど、それも一つの個性だね」と認めて待てる先生を作り出す環境を学校が与え、社会がそれを受け入れられるかどうか。…色々な立場の、自分とは違う考えを持つ他者と同じ空間にいることが…大切なのは、想像力を使って、他者に共感する訓練をせざるを得ないからだ。…それによって他者への想像力や、共感力、待たせることと許されること、それらを経験するうちに、いつしか海の向こうの見知らぬ誰かの痛みまで、心で感じる力が育まれてゆく。(P263)

○私たちは自分で選んでいるつもりで、実は思想を形成されながら生きている。大人ならそれに気づけるが、生まれた時からスマホがあり、便利な世界で生きるデジタル世代がその違いに気づくのは難しい。/GAFAがトップに君臨するこの世界は、これからますます快適になり、よりスマート化していくだろう。その中で私たちが子供に教えられることがあるとしたら、いかにGAFAの中で快適に生きるかではなく、「GAFAの外にも世界がある」という真実だ。(P269)