とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

コロナ後の未来

 「あとがき」に以下のような文章があってびっくりした。

○2000年代を迎えるにあたって私たちは「ミレニアム」と口にして、新しい時代の訪れを寿ぎました。…世界はつながり、どんどん快適になっていく―。/グローバリゼーションの熱に浮かされた私たちの危うい万能感に、背後から一撃を与えたのが新型コロナウイルスだったのではないでしょうか。(P216)

 本書の編者である大野和基氏の文章であるだが、いや既に多くのはここ10年前くらいから「今の世界はおかしい」「脱成長の成熟社会に向かわなければいけない」と感じてきたのではないか。だが、こうした認識の編者がインタビュアーとして聞き出した話は、著名な知識人とはいえ、インタビュアーの意向に沿った回答をしたのかもしれない。いや、そもそもそうした思想の持ち主なのか。

 トップバッターのユヴァル・ノア・ハラリの記事は、中国やロシアに対する偏見に満ちていて、とても読むに堪える内容ではなかった。2番手のカタリン・カリコは自分の生い立ちを述べるだけだし。3番手のポール・ナースはさすがに自分の専門領域の範疇で話をしているが、リチャード・フロリアの記事に至っては、フロリダ氏はクリエイティブ・クラスはごく少数の限られた人々だと再三言っているものの、彼らの選択と行動の話に終始してしまう。たぶんインタビュアーの意向に沿って話した結果だろう。本当に聞きたいのは、大多数を占める人々の行動なのに。

 そしてイアン・ブレマーはアメリカの立場から、ロシアや中国との関係を予測する。「最悪のシナリオは、あらゆる面での二極化です」(P196)と話すが、たぶんそれは西欧諸国にとって「最悪のシナリオ」であって、ロシアや中国、そしてその他の国々にとっては実は「最悪」ではないかもしれない。そして今、状況はその方向に向かっているように感じる。ではどうするか。ブレマーも指摘しているが、アメリカの「分断」を早急に解決する必要がある。今、最大に反省すべきはアメリカではないのか。

 なんてことを本書を読みつつ思ったが、所詮、インタビュー記事に過ぎない。ポール・ナースが登場したのは嬉しいが、他の人たちの本を読もうとは思わなかった。この本の意図はどこにあったのだろうか。

 

 

○【ポール・ナース】科学的根拠があるからといって、科学者は傲慢に振る舞うべきではありません。…科学でわかっていることのほとんどは、現在も発展中であり、“暫定的な知識”だと私は説明しています。…つまり、科学とは暫定的な知識の積み重ねであり…科学が対応しなければならない問題は、往々にしてまだ解答が見つかっていないものです。/自分たちがいかに何も知らないかを直視する必要があります。(P100)

○【リチャード・フロリダ】誰でも新人時代からリモートワーカーになれるわけではないということです。…若いときには人と実際に会って、プロフェッショナルなネットワークを築かないとなりません。キャリアを重ねて専門的能力を身につけて、そのスキルに対する需要が出てくることで、自分の影響力が強くなるのです。そうすると、リモートワークができるようになります。(P135)

○【スコット・ギャロウェイ】COVID-19の長期にわたる特徴として、物事を大きく変化させる作用よりも、物事を加速させる作用のほうが強いことが挙げられます。世の中ですでに起きている変化をどんどん加速させて大きくしていくのです。…どの分野においても変化のトレンドが、この2年ほどで10年分くらい早送りされてしまいました。(P163)

○【イアン・ブレマー】いまのアメリカにとって、最優先にすべき課題は3つです。すなわち、分断の原因を取り除くことです。/①遍在する富の再分配/②構造的な人種差別の是正/③分断を助長するソーシャルメディアの規制/こうした国内の重要課題に集中して取り組むべきなのに、「世界の警察官」のように対外関与する外交姿勢に、多くの国民は疑問を抱いているのです。(P206)