とんま天狗は雲の上

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気候変動の真実☆

 筆者のスティーブン・クーニンはカリフォルニア工科大学の教授を長く務め、オバマ政権下ではエネルギー省の科学担当次官も務めたアメリカを代表する科学者の一人だ。民主党はゴア副大統領の頃から地球温暖化対策に積極的に取り組んできた。トランプ大統領共和党政権下では一時、後ろ向きな方針を示したが、バイデン政権になり再び地球温暖化政策に積極的に取り組み始めた。しかしそうした政権の中枢にいたはずの科学者が、その政策に対して異議を唱えた。

 クーニンが主張していることはシンプルだ。気候学はまだ未解明なことが多過ぎて、二酸化炭素削減などの取組が本当に地球温暖化を止めるのかわからない。また、今世紀末には気温が3℃以上上昇するとした気候モデルはあまりに恣意的な調整がなされ、信頼が置けない。さらに、気温上昇や異常気象アピールのために用いられるグラフ等も実に不誠実なものが多い。ちなみに、「気候と気象は違う」という指摘も重要だ。

 しかし、二酸化炭素による温暖化傾向を否定するわけではない。ただ、それ以外の自然的な要因が地球温暖化により大きな影響を及ぼしている可能性が大きい。人間の行動がどれだけ温暖化に影響しているのか、わからない。なのに、いたずらに、二酸化炭素排出削減ばかりを主張するのは、これからようやく成長期を迎えようとする発展途上国格差社会のなかで貧困に喘ぐ人々に対して、正しい政策ではないのではないか。

 こうした地球温暖化の不確実性や不誠実性を批判するだけでなく、現実的な提案もしている。一つは、批判的な立場から検討する「レッドチーム」の結成。そして、地球温暖化傾向に対しては「適応」、すなわち当面は「対処療法的な対応」をとることを提案する。それはあまりに微温的すぎるかもしれない。しかし間違っているかもしれないことを過剰にやりすぎるのはかえって問題を発生させる。

 科学者として、政策批判をしようとしているのではない。「できること(could)」と「すべきこと(should)」、「すること(will)」を区別しようという提言も面白い。ただ、今は「すべきこと」もわからないのに、「すること」だけが先走る。そう言えば、NGO批判も興味深い。まずは科学者が真摯になること。政治家やマスコミ、企業には、自己欲に沿って大衆を煽るような行為をやめること。そして一般市民には冷静になること。慌てても何もならない。我々はこうした真摯な科学者の声を聴いて、理性的に行動するしかない。

 

 

○・温暖化への人間の影響は増大しているが、物理的には小さな影響にとどまる。気候データが不足しているため、十分に理解されていない自然の変化と人間の影響を区別するのは難しい。/・数多くの気候モデルから導き出される結果は互いに食い違いや矛盾があり、さまざまな観測結果とも矛盾する。漠然とした「専門家の判断」によってモデルの結果が調整され、欠陥が見えにくくされることもあった。…要するに科学は、気候が今後の何十年かでどう変化するかを予測して社会の役に立つレベルには達していない。ましてや私たちの行動が気候にどう影響するかなどわからない。(P12)

○気候システムを流れるエネルギーのうち、人間の影響は現在1%にすぎない…。また、わからないことがまだまだ多いということでもある。人間の影響を計測して気候科学に役立てようとするなら、気候システムも残る99%を1%以上の精度で観測・理解しなければならない。…限られた時間の限られた観測結果しかなく、不確実性がいまだの大きいシステムにおいて、これは大変な課題だ。(P86)

○マスコミはNGOの権威を持ち上げる傾向がある。だが、NGO利益集団でもあり、気候やエネルギーに関するそれぞれの方針を持っている。そして彼らは強力な政治活動家として…政治力を発揮する。多くのNGOにとって「気候危機」は存在理由そのものだ。…行動主義が問題だとは思わない。NGOの活動のおかげで世界がよくなった例は無数にある。だが、自身の大義のために科学をねじ曲げることは許されない。(P259)

○人間による気候への影響を減らすためにできる(could)ことはたくさんある。…「できる」というのは「何をすべきか(should)」とは違う。…結局は価値観の問題になる。未来の気候の不完全な予測をもとに、開発、環境、世代間の公平、地理的な公平を秤にかけるのだ。さらに、「できる」「すべき」は「何をするか(will)」とも違う。…世界ができること…はたくさんあるが、さまざまな理由でしないこともたくさんある。重要なのは、willに関する判断はshouldに関する意見表明とは決して同じではないということだ。(P278)

○我々は科学そのものを向上させる必要があり、それにはまずスローガンや論争の枠を越え、不正の告発とは無縁な、率直でオープンな議論から始めなければならない。…科学は疑問から始まる。答えがすべて出ていると言い張るなら、新しい研究を進めるのは困難だ。実際…気候をめぐる重要な未解決問題はまだたくさんある。(P333)