とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

マスメディアとは何か

 日頃、とかくマスコミに対しては「マスゴミ」などと否定的に言ってしまうことが少なくない。一方、マスメディアの効果に対してはプロパガンダという言葉に代表されるように過大に評価し、恐れるイメージがある。本書では冒頭の第1章「メスメディアは『魔法の弾丸』か」で、「ナチスプロパガンダが強力であった」というイメージが「流布している」ことに対して、このイメージがナチ党だけでなく、政治的な敗北した側や国民にとっても好都合な言説として受け入れられた結果だと指摘する。

 こうして「強力効果論」の紹介とその限界を指摘するとともに、第2章以降では「限定効果論」や「新しい強力効果論」を紹介するなど、メディア効果論について学術的に、かつ丁寧に説明をしていく。そして第5章では「インターネット」を取り上げる。マスメディアが思考のフレームを設定し、疑似現実を表出するのに対して、インターネットはメディアとして「全く新しい存在や影響を及ぼしている」ということはなく、あくまで「個人の選好を強化する」に過ぎないと指摘。しかし、その結果として、社会の分断が深刻化する可能性もあり、これに対するに、意外にもヤフーニュース等のポータルサイトの効用を評価する。

 それにしても、やはりマスメディアの影響は大きいし、インターネットによる分断と偏狭化は気になる。本書の最後には「民主主義にもとづく社会を持続可能なものとするためには、良いメディア環境を守ることは必須である。」という穏当な意見が述べられているのだが、ぜひとも日本社会もそうした方向で推移していってほしいと願う。人々の良識を信じたい。

 

 

○明らかに偏った報道であっても、自身の立場に沿っていれば偏りを小さく見積り、自身の立場に沿わなければ偏りを大きく見積もるという形でバイアスが生じる。…人々が、ある程度中立的な報道を行う伝統的なマスメディアを偏向と批判し、自らの政治的立場に近いメディアを偏向していないとみなすのであれば、発信される情報もそれを受け取る人々の意見も極化し、意見が異なる者同士の対話は不可能になるのだ。(P119)

○人々の現実認識は…マスメディアによって構成された現実の影響を受けているため、現実そのものとは異なる疑似環境と呼びうるものである。/これは…マスメディアが多く伝える争点が…重要だと認識される議題設定効果として立ち現れる。また…多く伝えられた争点が政治的リーダーの評価に用いられやすくなるプライミング効果として、実際の選挙結果にも影響を与えうる。そして…マスメディアがどういった側面を強調するのかで人々の意見に違いが生まれる。これが(強調)フレーミング効果である。(P182)

○個人の選好とは無関係に同じ情報を発信するマスメディアとは異なり、インターネットにおいては個人の選好に沿った情報が次々と提示されるため、個人の選好が強化される。…結果として起きる負の社会的帰結を表す比喩として、「エコーチャンバー」と「フィルターバブル」という概念が用いられる。…インターネットは、人間がもともと持つ性質と合わさることで個人の選好を強化し、それが社会にとって好ましくない帰結を招く可能性がある。(P193)

○ニュースアグリゲーターは…人々の選好にもとづく強化がもたらすインターネットの副作用を軽減する働きを持つと言えるであろう。/これは、ポータルサイト…が、インターネット上のサービスでありながら…マスメディアとしての特徴を持つがゆえんである。1つ目は…利用者の規模が大きいという点…。2つ目は…掲載されている記事の多くは、既存のマスメディア事業者によって作成されたものであるという点…そして3つ目は…多くの人が知るべきだと考えられる重要なニュースをすべてのユーザーに等しく表示しているという点である。(P227)

○メディア環境の改善においてマスメディアが果たすべき役割は「人々が見るべき情報をなるべく多くの人に等しく届ける」ことである。…少なくとも民主主義にもとづく社会を持続可能なものとするためには、良いメディア環境を守ることは必須である。「マスメディアvs.インターネット」「マスメディア=悪」というステレオタイプを強調することは、メディア環境を悪化させる政治家や企業に力を与えてしまう。(P248)