とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

DO YOU SPEAK FOOTBALL? 世界のフットボール表現事典☆

 世界中でプレーされてきたサッカー。イタリアではカルチョ・フィオレンティーノこそ現代フットボールの起源だという架空の説が受け入れられ、フットボールと言わず、カルチョと呼ばれるように、各国でサッカー用語やサッカーにまつわる様々な表現が独自に発展し拡散してきた。それらを一堂に集め、国別に整理し、解説をした書物。解説と言っても無味乾燥なものではなく、語源となった出来事だけでなく、それぞれの国のサッカー事情なども紹介し、読んで飽きない内容となっている。

 各国は、南米から始まり、北中米、ヨーロッパ、アフリカ、アジア、オセアニアの各地域別に、国名のアルファベット順に並べられている。その中では、オーバーヘッドキックなど、同じプレーがそれぞれ様々な言葉で形容されていることも披露される。また、例えば「水を運ぶ人」はカントナが侮蔑的な言葉として最初に口にして、フランスではその意味で定着しているが、日本ではオシムが肯定的に使用し、同じ言葉が異なる意味で使われていることなども紹介しており、面白い。

 やはり日本の項目は注目してしまう。そこで取り上げられているのは「泥臭い」「永久欠番」「勝ち星を上げる」「楔のパス」「無回転シュート」「無冠の帝王」「司令塔」「守護神」。「守護神」などは確かに、日本独自の表現かと納得するが、「楔のパス」が日本独自と紹介されると、やや驚く。説明文を読むと、「ポストプレー」や「ポストプレーヤー」も日本独自の表現だと紹介されている。では、大迫のプレーはドイツではどう表現されていたのだろうか。興味が沸いてくる。

 国別に淡々と並べられているので、途中でやや飽きてしまう部分もあるが、途中途中には「股抜きの呼び方」や「動物から来た表現」など、各国の特徴的な表現をまとめたコラムも挟まれている。全編こうした編集にした方が読む分には面白かったのではないかと思うが、「事典」として使うには本書の方がいいのかもしれない。いずれにせよ、それ相応に面白かった。

 

 

○【マノ・デ・ディアス 神の手】見え透いたごまかしにここまで詩的な名前がついたことが、かつてあっただろうか? 1986年ワールドカップ準決勝…ゴールキーパーのピーター・シルトン越しにアルゼンチンの先制ゴールを手で押し込んだマラドーナは、イングランドを激怒させ、世界を憤慨または感動させた。試合後、どうやってゴールを決めたのか問われて、マラドーナは「少しはマラドーナの頭で、少しは神の手で」と答えている。(P28)

○【チレーネ チリ風、オーバーヘッド・バイシクル・キック】ラモン・ウンサーガ・アスラ…は12才でスペインのビルバオからチリへ移住し、チリ国籍を取得した。彼は1914年、タルカワのクラブ、エストレーリャ・デ・マールでプレーしていた時に、バイシクルを世界初披露されたと言われる。…1916年にブエノスアイレスで初開催されたコパ・アメリカで十八番を繰り出し、地元の新聞がこのプレーをチレーナ、「チリ風」と呼んだのである。(P62)

○【チャラカ オーバーヘッド・バイシクル・キック】19世紀末…ペルーの港町、カヤオで働くイギリス人船員たちが…波止場で試合をした…。この草サッカーの試合で、地元チームの選手たちがアクロバティックな空中ボレーを披露して…イギリス人を驚かせたのである。このプレーは、カヤオっ子を指すあだ名、チャラコにちなんで、チャラカと命名された。(P72)

○【ポルテール・ドウ 水を運ぶ人】カントナは、1996年、所属するマンチェスター・ユナイテッドデシャンのいたユヴェントスと戦った後、デシャンの能力を見下す評価をし、彼がいつもポルテール・ドウ「水を運ぶ役」で、そんなプレーなら「街のどこにでもいるさ」と言い放った。…カントナの嘲りは、創造性に欠ける面白みのないミッドフィルダーを言い表す言葉として定着することになった。/「水を運ぶ人」という表現は、日本ではイビチャ・オシム氏が「チームのための汗かき屋」という肯定的な意味で使って広く知られるようになった。(P166)

○【モルボ 蜜の味】モルボとは、苦みと針と陰謀をぎゅっとミックスしたようなもので、スペインサッカー、特にバルセロナレアル・マドリーのライバル関係に油を注いでいる。…相手の不運・不幸の時しか味わえない、汚れたワクワク感やどす黒い喜びの感情を指す。(P288)

○【ジャパン 日本】この国のサッカー文化のコスモポリタンな性格を反映して、日本のサッカー用語辞書には他国からの借用語が満載だ。英語からの借用語には、たとえばキーパー、オフサイドトラップ、ヘディングなどがあり、ヘディングは広く名詞として使われる。イタリアはバンディエラリベロなどの言葉を提供し、ブラジル・ポルトガル語からはエラシコボランチなどが取り入れられた。(P366)