とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

ヨーロッパ史入門 原型から近代への始動☆

○「ヨーロッパ」とは、地理的にも言語的にも、あるいはいわゆる人種や民族といった点でも、固定したものでは決してなく、多様な物質的・精神的な要素が入り混じってできあがっていったものです。そして広い意味での文化のまとまりとしてヨーロッパが形を整えたのが、中世の半ば、紀元1000年を前後する時代でした。(P2)

 筆者の池上くんは高校の同級生。当時から「仙人」と呼ばれて、独特の雰囲気を醸していたが、東大に進学し、そのまま東大でイタリア中世史を研究していると聞いた。かつて「シエナ―夢見るゴシック都市」を読んだこともある。同じく高校の同級生がフェイスブックで「池上くんの本書が面白かった」と書き込んでいた。そんな本を書いているのか。さっそく図書館で借りて、読み始めた。

 ちなみに、本書は岩波ジュニア新書の中の一冊で、児童書のコーナーに並べられていた。でも読んでみると、十分、大人の期待に応える内容。もっとも私が世界史で受験しなかったので、そもそもあまり世界史の知識がない。これまで「ローマ人の物語」シリーズなどは読んでいるが、全体像がよく理解できなかった。本書は、イギリスやイタリア、フランス、ドイツなど一国毎の歴史ではなく、ヨーロッパ総体として、いかにその歴史を歩んできたかが描かれている。

 もちろん、ヨーロッパの基礎となるのは、ギリシャであり、ローマである。だが、なぜギリシャとローマがヨーロッパの基礎となったのか。中東や東欧、北欧など周縁との関係の中でいかにヨーロッパが形作られていったか。ヨーロッパとはすなわち「文化」である。そしてそれは「キリスト教霊性」「ギリシャ・ローマの理知」「ゲルマンの習俗」そして「ケルトの夢想」から成り立っている。これは筆者の歴史観だが、これらの各要素についてもしっかりと綴られている。

 本書は、中世から近世初期、絶対王政の確立と植民地支配が始まった17世紀までを対象としている。しかしイングランドでは既にピューリタン革命や名誉革命も始まった。いよいよ近世の始まりだ。さあ、次は「ヨーロッパ史入門 市民革命から現代へ」を読んでみよう。

 

ローマ帝国の広がりによって、後に成立する「ヨーロッパ」、つまりスコットランドからシチリアガリシアからハンガリーまで、共通の習俗・文化が広まった意義は大きいでしょう。それは言語(ラテン語)、文学、学問、芸術、宗教などで、ギリシャ起源の遺産をローマ人なりに継承し普遍化されました。…そして、ローマ法は中世ヨーロッパばかりか東西両世界、現代の多くの国の法システムにしっかり生きつづけています。(P32)

○ヨーロッパが形成されるには、文明の四つの大きな構成要素が必要で、それらが綯い交ぜになり融合して、文化としての「ヨーロッパ世界」が誕生したと、私は考えています。その四つの要素とは、「キリスト教霊性」「ギリシャ・ローマの理知」「ゲルマンの習俗」そして「ケルトの夢想」です。(P52)

○ロマネスク期に本格的な「キリスト教世界」が誕生した…。しかし…世俗場面に着目すると、まだ連帯感よりも、民族・地域・身分が別々に抱える利害によって分裂する傾向が勝っていました。しかし11世紀末に、それを克服するような大きなできごとがありました。…十字軍です。…十字軍は教皇が唱道し、それに呼応して各国の君主・諸侯が家臣とともに十字架を背負って聖地エルサレム解放に向かう聖なる企てです。(P92)

○中世の盛期(ロマネスク期と…ゴシック期)は、戦争の絶えない弱肉強食の野蛮な時代ではありません。十字軍はあったものの、ヨーロッパ内部は比較的安定した発展期で、農民も都市民も労働に精を出しつつ余暇を楽しみましたし、学問・芸術も栄えました。なにより、個人意識や約定における相手への信頼感を前提としないと封建制度は考えられず、それは極端にいえば、人間の等質性、本質的平等性を前提としているのです。(P100)

○古代以来、ヨーロッパは、他者を劣るもの、怪物じみたものとして差別し、その反動の力を借りて自分たちの優越を確認しながら結束を図るというやり方を、何度もしてきました。…他者の表象は、未知の人々とその社会の客観的な分析というよりも、ヨーロッパ的価値の投影、ヨーロッパ自身が内部に抱える諸悪の外部への投影で、それをできるだけ単純化・均質化してひとまとめの他者性にしあげた上で、ヨーロッパ人は新世界や東洋を管理・支配しようとしたのです。(P156)