とんま天狗は雲の上

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ヨーロッパ史入門 市民革命から現代へ

 「ヨーロッパ史入門」の後編は18世紀から現代まで。フランス革命アメリカ独立革命以降の歴史については知っていることも多いが、それ以前はあまりしっかりとは頭に入っていない。そもそも神聖ローマ帝国ハプスブルク帝国オスマン帝国などが隆盛を誇っていた時代。だがそこからドイツやイタリアが統一され、東欧やバルカン半島の諸国が独立していく。さらにはロシア帝国の登場も。

 本書のいい点は、イギリスやフランスなどの大国だけでなく、これら周辺の諸国の歴史にもしっかり目配りして記述されていること。また、ナポレオンの果たした役割もよく理解できる。そしてナショナリズムの登場と市民革命、キリスト教の後退と世俗化、産業革命と植民地化。一方で、合理主義やロマン主義のことにも目配りを怠らない。「ヨーロッパ人は移動する民」という指摘も興味深い。

 二つの世界大戦とその後の東西冷戦は第3章までで終わり、最終の第4章では、今後のヨーロッパの行く末について筆者の展望(希望)を語る。アメリカ主導のグローバリズムに対して、ヨーロッパの多様性と地域レベルでの統一に期待する言説は興味深い。本書はウクライナ紛争が始まる前に書かれている。筆者はこの紛争をどのように解説するだろうか。アメリカ主導のグローバリズムに引きずられ、呻吟するヨーロッパの姿がまさにそこに見られるのではないだろうか。歴史はまさに現在につながっている。筆者の期待を裏切らないヨーロッパでいてほしいと願わずにはいられない。

 それにしても、これが中高生向けなのか。レベルの高さに驚くとともに、このレベルから学び直す必要を痛感した。大人向け教科書としても最適な一冊だ。

 

 

○ヨーロッパがヨーロッパたる根本的特質は…理性への信頼であり、民主主義・自由主義の擁護であり、技術革新と資本主義の発達であって、それらは前近代のキリスト教的ヨーロッパ精神の生まれ変わりとして位置づけることができるでしょう。/もうひとつ近現代にあらわになってきたのが、ヨーロッパ人は移動する民、つねに動いている人たちだということです。古代からそうでしたが、近世にアメリカという新大陸を「発見」し、近代になると世界を植民地にしようと、入植して帝国主義的支配を広げていった彼らは、その1か所にとどまれない移動本性を暴露していきました。(ⅵ P3)

○当時、フランス以外のヨーロッパは相変わらず「国王のヨーロッパ」であり、「国民のヨーロッパ」に敵意を持っていました。そこに「諸国民のヨーロッパ」の理想を掲げ、それを実現しようと大陸に進軍したのが、ナポレオンだったのです。フランス革命が民族や愛国主義を発明したわけではありませんが、それに新たな跳躍を与えました。その伝道師がナポレオンでした。(P50)

○19世紀までに世俗権力・政府はそれまでキリスト教会が担ってきた伝統的な宗教的役割を引き継いで自らが担うようになり、教会から教育に対する支配権を奪い、…十分の一税を廃止し…ました。結婚と離婚の規制は…市民法の役目になり、出生と死亡の記録の維持は地方の役所の義務となっていきました。…教会の減退、政治・社会の世俗化は…政治と宗教のすみ分けを引き起こし…世俗化した社会では宗教は私的領域、つまり個人や家族の選択の領域へと退却したのです。(P80)

○20世紀は「19世紀に世界を支配したヨーロッパが暴走して狂気の怪物として自壊していく世紀」ということができるでしょう。19世紀…人口が急増し…過剰人口は南北アメリカ…へと赴き…世界の大半を支配しました。…しかし20世紀に入ると、ナショナリズムが高揚して、民族間の敵意が剝き出しになり…二回の未曽有の大戦を引き起こしたのです。…しかし世紀の後半になると…政治的にも経済的にも、世界を統率する力がなくなり、アメリカや中国に後れをとるようになった小さなヨーロッパ。この小ぶりなヨーロッパは、かえって平和と安定を取り戻し、それなりに健康的で豊かな生活を各国民にもたらした一面もあるでしょう。(P126)

○ヨーロッパの力と豊かさは、中世から今日まで、何をおいても多様性にあります。…現在世界を席巻しているアメリカ主導のグローバリズムは、社会をのっぺりと標準化する危険があるので、ヨーロッパとしては、多様性をなんとしても保存しなくてはなりません。理性を働かせ…ナショナリズムの落とし穴にはまらないようにしながら、各国民・民族の伝統的特長を維持・発展させなくてはならないのです。それと同時に、一国のレベルよりも高いレベル…大陸文明のレベルで統一の基盤を模索する必要があると思います。(P186)