とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

米中逆転

 副題に「なぜ世界は多極化するか?」と付けられているが、単なる米国衰退、中国覇権の話ではない。「多極化」は筆者が日頃からブログ等で主張しているテーマである。
 戦前から隠然と続くイギリスを中心とする軍産複合体ユダヤ資本主義者を中心とする隠れ多極主義者との暗闘という、お得意の謀略論(私はけっしてこれを単純にバカにしてはいない。十分にありうる話として読んでいる)に、中国の中近代史、さらにはインド洋を中心とするイスラム世界帝国にまで話を拡げ、壮大な世界権謀史を描いてみせる。
 現在の欧米中心文明はしょせんここ200年あまりの出来事である。その前の500年、世界はイスラム商人が支配するインド洋と中国覇権帝国により成り立っていた。バスコ・ダ・ガマらの世界発見は、実は既存のイスラム世界帝国奪取であり、欧米帝国は「人権と民主主義」を武器に、世界支配を行ってきた。今はまさにこうした欧米主導の世界システムが崩壊し、いくつかのシステムが並立して世界を動かす多極化の時代に向かいつつある。
 こうした中でいつまでも米国従属にすがることで自己保身を図ろうとする官僚中心の日本は、世界の潮流から引き離され、その不安から日本国民の精神を抑圧状態に押し込めている。いっそ「多極化や米中逆転は、日本人の精神を自己抑圧から解放」するだろうと期待する。
 正しい、正しくないではない。こうした大きな世界観の中で日本を考え、世界を考え、自身を考える習慣は、現在のマスコミや知識人等には見られないものであり、大いに触発される。時代は変わろうとしている。いかに生きるかは自分自身にかかっていると同時に、大きな世界の流れの中にある。本書もブログからの転載が多いものの、こうしてまとめて読むと、筆者の考えや見方が総体的に窺えて興味深い。

●日本政府が米軍を買収していた理由は、実は、日米関係に関わる話ですらなくて、日本国内の政治関係に基づく話である。日本の官僚機構が、日本を支配するための戦略として「日本は対米従属を続けねばならない」と人々に思わせるため、そのための象徴として、日本国内(沖縄)に米軍基地が必要だったのである。(P60)
●日中などアジアの人々は、政府や上司の言いつけを守ることはできるが、自分の頭で考える訓練をほとんどやっておらず、システム思考力が弱い。・・・中国は、共産党一党独裁体制が続く限り、個人の自由な思考の涵養が阻止される。そのため、中国がアジアの覇権国になっても、世界システムを切り盛りできない。欧米の多極主義者に黒幕的に思考してもらい、中国は隠然とその言いなりになるしかない。・・・これは東アジアの社会風土が権威重視であり「勝手な思考」を殺しているのだと考えられる。本質的な世界の多極化には、まだまだ時間がかかる。(P136)
●欧州の勢力、特に、地中海や欧州諸国間、欧州と中東以東などの貿易をめぐる資金決済や資金提供(資本家)の役割を長く独占してきたユダヤ商人(宮廷ユダヤ人。スファラディ)たちが、インド洋貿易の支配権をイスラム商人から奪うこと、イスラムが作った世界帝国を乗っ取ることが、欧州の「地理上の発見」事業の隠れた最大の目的だったのではないか(P158)
●早くから民主主義や人権重視の政策を取り入れた欧米は、民主主義や人権を重視しない新興国・途上国を制裁する「人権外交」を展開してきたが、これは、民主や人権を口実に、新興国・途上国の発展や台頭を阻害するための戦略だった。・・・国際的な経済支援のあり方としては、人権や改革を重視する「ワシントン・コンセンサス」から、人権や改革と関係なく支援を行う「北京コンセンサス」への転換が起きている。(P230)