読書
いつ読んでも、津村記久子の作品は、からっとした明るさに満ちている。本書は、月刊誌「新潮」に掲載された「うそコンシェルジュ」とその続編の「続うそコンシェルジューうその需要と供給の苦悩篇」を中心に、他10編の短編を合わせて掲載されている。最も短…
筆者の作品は以前に「みんな政治でバカになる」を読んでいる。本書は、筆者の処女作だが、基本的なスタンスは変わらない。右翼・左翼、その両者を眺める位置に立ち、日本の政治・社会状況を批評する。本書は、ポリティカル・コレクトネスに対する違和感を起…
監修の西谷修のブログ「言論工房 Fushino_hito」は少し前から読んでいるが、内容的にはやや難しい記事が多い。本書はその西谷修が監修し、戦争についてわかりやすく解説したもの。二人の少年少女と、うさぎを擬したAIや西谷との対話を通じて、戦争の定義、ウ…
いま日本が直面する人口減少という問題について、社会学者の遠藤薫氏を中心に、さまざまな分野の研究者が集まり、分担して執筆した論文集。序章と第1部で人口問題を俯瞰した後、社会科学の視点、医療の視点、テクノロジーの視点と、さまざまなの分野の研究者…
「生きることは頼ること」では、責任を負う側ではなく、責任の対象者の側に設定し、責任を負うことになってしまった者にも慈愛の眼を向けるとともに、その者が責任が全うできなければ他の者に責任を委ねることができるとする「弱い責任」という概念を提唱し…
第二十六代継体天皇が、武烈天皇の後、縁戚を辿って、遠く越前から招聘され、しかししばし淀川沿岸に都を構え、なかなか大和に入らなかったことは、「英雄の選択」などでもやっていたので知っていた。では、第十五代応神天皇にはどんな謎があるのか。全く知…
筆者の渡辺惣樹もジェイソン・モーガンも知らなかった。それで、ここで書かれていることをどう捉えたらいいか、考えながら読み進めた。渡辺氏は「歴史修正主義」を掲げているようだ。つまり、現在の、多くの人が信じている歴史は必ずしも正しくなく、多くの…
本書は本国フランスでは、ウクライナの反転攻勢が功を奏さず、しだいにその劣勢が明らかになりつつあった2023年9月に発行され、10月のガザ侵攻の後、追記が書き加えられている。日本での発行はそれよりも1年遅い2024年11月だ。「日本語版へのあとがき」は202…
日航123便墜落事件については、森永卓郎の「書いてはいけない」を読んで興味を持ち、青山透子の「日航123便墜落事件 隠された遺体」と小田周二の「524人の命乞い」を読んできた。本書は「マンガ」とタイトルにあるが、マンガは半分、半分は普通に文章が書か…
「女性自身」に連載しているコラムを加筆修正した掲載したもの。その数163編。すべて見開き1ページに掲載されているので1編を読むのに時間はかからない。隙間隙間に読んでいたが、それでも10日ほどもかかってしまった。掲載された時期は2018年7月から2024年9…
正直、「当事者研究」に関する本が読みたいと思って、本書を購入してしまった。当事者研究は、べてるの家における綾屋紗月と向谷地生良の治療の実践の中で始まり、熊谷晋一郎らによって理論化された取り組みだ。私はこれを國分功一郎の本でもって知った。 し…
森永卓郎の「書いてはいけない」を読んで興味を持ち、「日航123便墜落事件 隠された遺体」も読んだ。だが、もう一つはっきりしない。そこで次は本書を読んでみた。なるほど。そこにははっきりと書かれていた。 自衛隊の訓練用の無人標的機が何かの過失があり…
石井紘基という政治家のことは、泉房雄のXなどで知っていたが、どんな仕事をしていた人なのかということはほとんど知らない。彼が刺殺された2002年は、W杯日韓大会が開催された年で、仕事でも新たな局面にあり、政治にはほとんど関心が向いていなかった。 本…
森永卓郎と泉房穂の対談本。両者の主張はこれまでもそれぞれの本などで読んできたし、タイトルにある「救民内閣構想」以外は、特に目新しい部分はない。 「救民内閣構想」については、「国民を救う政治」を行うための戦略として、5回の選挙を通じ、国民の味…
人の上に立つ悪人といって思い浮かべるのは、トランプか、プーチンか、ゼレンスキーか。はたまた、石破か、玉木か、立花か。筆者はアメリカで生まれ育ち、現在はイギリスで教鞭を執る社会学者。第1章の「序―権力はなぜ腐敗するのか?」という問いに対して、…
短編集「中国行きのスロー・ボート」の中の1編。どうしてこの作品を単行本として発行したのだろう。うちの書棚にあった「中国行きのスロー・ボート」を取り出してみた。正直、どの作品もほとんどその内容は覚えていないが、「貧乏な叔母さんの話」や「カンガ…
昨年公表された国立社会保障・人口問題研究所の将来人口推計が、出生率の設定にしろ、外国人の流入数にしろ、かなり甘いということは誰もが思っていることだろう。だが、2019~2023年の対前年増減率「マイナス4.54%」が今後も継続するという「出生数激減ペ…
2010年の2月、筆者はネットで、南アフリカの高齢女性たちがサッカーを楽しんでいる動画を見た。そして、その2日後、彼女らをその年の7月に開催されるベテランズ・カップへ招待することを思い立った。それから連絡を取り、募金集めやビザ取得に係るトラブルな…
村井純と言えばやはり、日本のインターネットの発展をリードしてきた技術者であり、かつて岩波新書として発行された「インターネット」、さらにその次の「インターネットⅡ」も読んできた。当時はまだ、インターネットの黎明期で、これらの本は、インターネッ…
森永卓郎氏の「書いてはいけない」は衝撃だった。さっそく、日航123便墜落事件について書かれた青山透子氏と小田周二氏の著書を図書館で予約した。しかしようやく届いた本書は、「書いてはいけない」の後に書かれたもの。青山氏は本書の前に、この事件に係る…
「政府は必ず嘘をつく」以降、多くの堤未果の著書を読んできた。昨年発行された本書では、能登半島地震と災害ショックドクトリン、ウクライナとガザ戦争、農業基本法の改正、SNS等における言論統制などを取り上げる。太陽光パネルの危険性、ガザ紛争の影にあ…
今年最後に読んだのは、本書。「婦人公論」他に連載した短いエッセイを集めたもの。その数、59編。それぞれの長さは2000字弱。この程度だと一気に読めるし、内容も複雑ではないので、読みやすくわかりやすい。 そしてタイトルの「珠玉」は、最初の1編の「世…
「耳に棲むもの」を巡る5編の珠玉の短編集。補聴器売りのセールスマンが登場する作品が3編。それから。小鳥のブローチとラッパを欲しがった少年。何を感じるでもなく、ただジーンと思う。 でも、ジュウシマツを口に詰め込んで自死した会長の姿は少しグロいと…
副題に「洪庵と泰然」と付けられている。緒方洪庵と佐藤泰然。緒方洪庵はともかく、佐藤泰然はかすかに聞いた覚えがある程度。だが、次男が松本良順と聞けば、多少は聞き覚えがあるか。だが、副題に関わらず、作品はもっぱら、緒方洪庵の一生を描いていく。…
副題の「相対論と量子論はなぜ『相容れない』のか」に興味を持って読み始めた。一言で言えば、一般相対性理論における重力場が「なめらかに連続的に変化している」ことを前提としているのに対して、量子論における電磁波などのエネルギーは飛び飛びの値で離…
タイトルは「利己的な遺伝子 利他的な脳」だが、前者についてはほとんど記述がない。そもそも原著のタイトルは「THE ALTUISTIC BRAIN」なので、後半だけなのだ。訳者は福岡伸一。彼が日本版序文で書いているとおり、本書は、利他的脳理論について説明するも…
植草一秀のブログ「植草一秀の『知られざる真実』」は数年前までは時々読んでいたが、最近はほとんど見ていない。植草氏の本を読むのは初めてかもしれない。と言ってもこれは政治学者の白井聡との対談本。自民党政権批判、対米従属批判というのは読む前から…
言わんとすることはわかる。知識から発想するのではなく、自由な想像の中で発想をすることが大事。前者を「ある型」思考と言い、後者を「ない型」思考として、後者がより優れていることを全編にわたって訴えている。 序章でこのことを述べた後、第1章以降は…
「100分de名著」は毎週見ている。本書の元となった「100分de宗教論」は、今年の1月2日に、100分間の特番で放送された。が、正月だったこともあり、見逃してしまった。こうして本になって読めてよかった。想像していた内容とは全く異なり、面白かった。 1回の…
「プラチナハーケン1980」を読んで、「ブラックペアン1988」がどういう内容だったか、もう一度、読んでみたくなった。幸い、文庫本がしっかり取ってあったので、さっそく読み返した。なるほど、「プラチナハーケン1980」で描かれる渡海と佐伯の確執があって…