池田清彦と養老孟司の東日本大震災と福島原発事故を巡る対談集。特に後者について論を多くしている。もちろん東電の隠蔽体質や原子力村に対する批判をしているのだけど、同時にこうした災害や事故に対してどう立ち向かうべきか、その心の持ちよう、考えようを議論している点が面白い。
対談の前後に、二人の論文が掲載されている。後段の「エネルギーは未来が決める」は池田清彦が執筆しているが、いろいろと代替エネルギーについて論じたあとで、結局どれも容易ではない、として「人類の未来は新エネルギーの開発いかんにかかっている」と断じる。ただしその後が池田らしくて面白い。
●それは、利用可能なエネルギー量が多ければ多いほど、種としての人類の絶滅確率が低くなることを意味しない。むしろ事態は逆になる可能性の方が高いかもしれない。(P170)
と書いて、最後に「それがどんな生活か・・・ちょっと覗いてみたい気がしないでもない」(P170)で締めくくる。舌をペロッと出しているいたずらっぽい顔が目に浮かぶ。
そう言えば、「人の命は地球よりも重い」なんてことはない、と否定している文章もあった。「すべての人はいずれ死ぬのだから・・・人一人の命を救うために、社会システムが崩壊したらそれこそ大変である。」(P144)と言う。こうしたことを平然と言えること。それがこの二人の対談を読んで心地良いものとしている。
タイトルの「ほんとうの復興」とは何だろう?直接の答えは書かれていない。二人の頭の中には既に答えがあるのだろう。
- 作者: 池田清彦,養老孟司
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2011/06
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●人生の解答とは、自分の人生そのものであって、それはなにか複雑な、ややこしい問題への解答なのである。どうしてこういう解答になったんだ、問題はなんだったのだ。それこそ人生が投げかける問題である。人生は何のためかという問いに、昔から解答がないのは、問いと答えが逆転しているからであろう。解答は動かしようがない。自分の人生なんだから、当たり前ではないか。わからないのは問題のほうであって、人生のほうではない。(P20)
●すべての生きものが互いにつながりあって、生態系を形成している。そうした考え方が、今世紀中に生物学の主流を占めるようになるであろう。必ずしも適者生存なのではない。進化は一本の樹木の枝ではなく、生きものが互いにつながり合った、網の目である。(P21)
●まあ、ともかく、こういう災害が起きたあとは、これをきっかけにして、何かプラスに転じることを考えたほうがいいんじゃないかと思うんだよね。そうしないと、亡くなった方も浮かばれないでしょう。(P99)