とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

カレイドスコープの箱庭

 「田口・白鳥」シリーズの最終巻という触れ込みだが、それ以上に、巻末に添えられた「海堂尊ワールド」がいいという評判に思わず単行本を購入してしまった。確かに巻末のデータ集はかなり秀逸だ。作品相関図もさることながら、過去・現代・未来で書き分けた登場人物相関図が特に見事。東城大剣道部やすずめ四天王のつながり、極北市や碧翠院桜宮病院の状況、桜宮中学校における人のつながりなど、けっこう細かいところまで狭い紙面の中にうまく書き込んである。登場人物593人をリスト化した全登場人物表はこれからも使う機会がありそうだ。
 付録の見事さはさておき本編もこれまでと同様、十分楽しませる内容になっている。もっとも長編物に比べれば全体的に軽い感じは否めない。かるーく楽しく読ませる中編といった感じ。鉄筒の万華鏡を握らせるなんてのは指紋を取ろうとしているは見え見えだし、田口の物わかりが悪いのにも程があると思わないではないが、まあ読者に対して親切ということだとは思う。
 付録が付いてお買い得という一冊。海堂尊ファンなら当然もう購入済みでしょうが。

カレイドスコープの箱庭

カレイドスコープの箱庭

●医療の基本は互いの信頼関係で、医療安全は信頼の積み重ねだ。だから患者の「信頼」が壊れた時、医療は崩壊する。/これと似て非なるものに「期待」がある。そのふたつの外見は似ているが中身は全然違う。/患者は病からの完全な回復を「期待」するが、それは不可能だ。・・・人はいつかは必ず死ぬからだ。/だから医療が患者や家族の「期待」に応えられないことは多い。/だが愚直に誠実の対応していれば「信頼」は守れる。逆に言えば、信頼を失う時にはそこには必ず虚偽が混じり込んでいるものだ。(P20)
●組織は何かしら宿痾を抱えている。だがどこの問題もつまるところマンパワー不足に帰結する。その状態が長く続くと金属疲労を起こし不祥事に発展する。(P53)
●わからないことを”わかりません”なんて、そのまま口にしてもいいのは幼稚園児までだよ。人に物を尋ねるのならせめて、自分なりの仮説を持たないとねえ。(P119)
エシックスとは、神が手にした時には最強の兵器になるのだと、俺は悟った。だが反対に、政治臭が強い俗物が手にすると、腐臭の耐え難い代物に堕し、素直に呑み込めなくなってしまう。そしてこの社会では往々にして、そっちのケースの方が多い。東城大に棲息しているエシックスの権化と同じような言葉でも、桐生のような人物が口にすれば、無敵の説得力が生まれる。(P187)
●いつの世にも、顔を上げた前に道は広がる。/うつむいてしおれた人間に未来は拓けない。・・・世の中は善意の人ばかりではない。とかく人の世は、善悪が入り乱れた万華鏡の箱庭の世界だが、それでも善意と悪意を天秤にかければ、ほんのわずかながら善意に傾く人が多いはずだ。(P236)