とんま天狗は雲の上

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持続可能社会へ向けた温暖化と資源問題の現実的解法

 環境問題については、ヒステリックな政府やマスコミの対応と武田邦彦らを中心とするおおざっぱで過激にすら感じる反論が展開され、真実はどのあたりにあるのかわかりにくい状況にある。専門書を読むだけの能力のない一般市民にとっては、冷静でバランスの取れたわかりやすい解説が欲しいと思っていた。この本は、タイトルこそ長くて仰々しいが、内容と構成が大変わかりやすく、待ち望んでいた本と言える。
 結論的には、学問的にはまだ解明されていないことも多く、過剰な反応や対策は慎み、理性を持って、取り得る対策を着実に講じていこう、というものだが、歯切れの悪さも含めて十分説得力がある。
 文中に、以下のような一文がある。

●別の考え方もある。仮に、因果関係や予測が不確実だとしても、対策の多くは資源、エネルギーの節約につながるから、長い目で見れば人類のためになる。したがって、理由がなんであれ地球温暖化対策は積極的に推進するべきだという考え方である。実は、筆者もかつてはそう考えていた。しかし、最近の過剰な反応や稚拙な対策は、かえって事態を悪化させるおそれがあり、この辺で科学的・合理的に見直したほうがよいと思うようになった。(P114)


 まさにこうした思いがこの本を書かせたと言える。ちなみに地球温暖化だけを取り上げるのではなく、ほんとうにめざすべきは「持続可能な社会」であり、そのためには資源問題、エネルギー問題が重要であり、地球温暖化も含めた環境問題もその一つとして捉えるべきだという筆者の基本スタンスは全く正しいと言える。
 応用化学の専門家であり、東京大学名誉教授、日本化学学会会長等を務めた経歴を持つ。化学的見地から化学物質(化学の立場から見た物質。すべての物質を含み、有用なものも有害なものも天然物質も人工(合成)物質も化学物質である)のリスクや生産体制(グリーンケミストリー)などを解説する部分は専門的で確かである。
 構成も、第1章で「持続性について正しい考え方をするための12か条」として、部分と全体、トレードオフとケースバイケースなど、誤りやすい基本的な視点を指摘。現況を概観する第2章に続いて、第3章「問題解決のためのツール」として、リスク評価とライフサイクルアセスメントを紹介。そして第4章、第5章で、エネルギーや地球温暖化、食料、資源等に関する詳細な課題検討と健全な対策の考え方を提示する。非常にわかりやすい構成となっている。ところどころに挿入されたコラムも面白い。
 すぐにこうしろということを提案している本ではないが(逆に拙速な対応を戒めている)、この本が少しでも多くの人に読まれることを期待したい。

持続可能社会へ向けた 温暖化と資源問題の現実的解法

持続可能社会へ向けた 温暖化と資源問題の現実的解法

●エネルギー消費の視点から考えると、循環に適した材料は製造時のエネルギー消費が非常に大きいもの(例 アルミニウム)や資源的に希少なもの(貴金属など)、あるいは回収分別・再生がとりわけ容易なものに限定される。・・・循環は「持続」のための一手段であって目的ではない。(P3)
●かつて、ある国際機関がダイオキシン発がん性ありのグループに認定したことが大きなニュースとして報道された。・・・この機関の認定は発がん性の程度を評価したものではなく、発がん作用の有無を判断しただけなのである。・・・実は、エタノールや木くずも発がん性物質に分類されている。(P3)
●政治やマスコミが大衆迎合的になって揺れ動いている昨今、巧妙なレトリックが誤解を生みやすくしている。市民(大衆)こそがしっかりした判断をしなければならない。(P22)
●絶対安全(リスクゼロ)がないことはいまや常識になっていると思うが、リスクをゼロに近づけようとすればするほど膨大なコストや労力が必要になる。(P59)
●海上輸送エネルギーは農業生産に要するエネルギー消費の5分の1程度で相対的に小さい。もし、地産地消を推奨して、ハウス栽培で野菜を生産すると、フードマイレージは小さいが、エネルギー消費は膨大なものになる。(P143)


 これ以前の読書記録は、「Toshi-shi の書斎」をごらんください。