とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

不愉快な現実

 副題に「中国の大国化、米国の戦略転換」とある。前著の「日米同盟の正体」では、日米同盟は米国が自らの国益と戦略のもとに日本を利用しようとするもので、膨大な費用負担を課すことで日本の経済力を削ぐ目的も有するなど、必ずしも日本の国益に利するばかりのものではないとアメリカ追従型外交に警鐘を鳴らした。当時は普天間問題の渦中だった時期だが、その後、鳩山首相は退任し、東日本大震災があり、石原知事の尖閣諸島購入発言があり、北朝鮮の最高指導者も代替わりした。日本を巡る外交局面は刻々と変化をしているが、政府の外交姿勢に大きな変化があったようには思えない。
 昨年には中国のGNPが日本を抜き、いよいよアメリカとの2大国時代が始まりつつある。今後はさらに大国化し、軍事力も日本をはるかに上回る状況に拍車がかかる。一方、アメリカも今秋には大統領選を迎えるが、昨年のOWSに代表される格差デモの発生もあり、オバマ政権にも不安定要素が大きい。もはやアメリカにとって日本はアジアの一国に過ぎず、世界戦略の中で中国を視点に据えた外交を展開せざるを得ない情勢になってきている。
 こうした状況の中で、日本は旧来の世界観にいつまでも拘泥するのではなく、彼我の状況を冷静に把握・分析して、戦略的な外交を展開する必要がある。
 本書では、輸出入等で見た世界情勢や東アジアにおける米国の戦略、中国の軍事戦略と課題、ロシアや北朝鮮の情勢などを各国の報道や統計資料等から分析し紹介するとともに、第8章では「戦略論」の観点からこれからの外交の方向を見定め、第9章「日本の生きる道」で複合的相互依存関係の促進による平和的手段の模索について提言する。
 もっとも筆者は「おわりに」で、日本は提言されたような平和的な外交は行われることなく、ここ数年は危険な道を歩いていくのではないかと悲観的な憶測をしている。それからで間に合うのか、日本は再生し得るのか。それはわからない。一刻も早く政治家が、そして国民が目を覚まし、複合的相互依存関係の構築による平和的な外交関係を築かねば、日本の未来は悲惨なことになりかねない。筆者による新たな警告の書である。

不愉快な現実  中国の大国化、米国の戦略転換 (講談社現代新書)

不愉快な現実 中国の大国化、米国の戦略転換 (講談社現代新書)

●「中国はまだ民主的ではないが、民主主義に反対している訳ではない」「中国は国際秩序を壊すことに自己の将来を置いていない。事実は逆であり中国の指導者は現代の世界と結びつくことに将来があると見なしている」として「中国とは協調する基盤がある」と主張した。(P65)
●ステファン・ウォルツ・ハーバード大学教授は・・・「米国の新国防戦略におけるアジア重視はオフショアー・バランシングの要素があり、これを歓迎する」と指摘している。・・・米国は、米国の利益のために、これまで以上に日本を軍事的に利用する方針を決めたということである。(P77)
●中国では権力は「天」から授かったものであり、統治者は民衆のために善政を行い、伝統的な中国文明の価値観を守るかぎりにおいて、その正統性を民衆から認められるという文化的伝統があった。・・・「中国は民主主義体制ではない」と批判する人々は、日本と中国とどちらの政策が「公共の利益のために行使されているか」を問えばよい。誰も日本の政府の政策の方が「公共の利益のために行使されている」と自信を持って主張できないのではないか。(P167)
●今日アメリカ・カナダの関係やフランス・ドイツの関係は「複合的相互依存関係」として互いの戦争は考えられない。しかし、時間軸を広げると常にそうだった訳ではない。今日の状況は意識的な努力によって構築されたものである。「リアリズム」中心で動く国際社会をいかに「複合的相互依存関係」に移行させるか、それが国家の安全を考える人の責務である。(P215)