とんま天狗は雲の上

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そして日本経済が世界の希望になる

 先に読んだ「高校生からわかるマクロ・ミクロ経済学」で筆者の菅原晃氏はアベノミクスに対して必ずしも否定的な記述をしていない。菅原氏のブログ「高校生からのマクロ・ミクロ経済学入門 政治経済 現代社会」を読むと、むしろ好意的な評価をしているようにも見受けられる。アベノミクスの理論的支柱であるリフレ派の重鎮、ポール・クルーグマンアベノミクスを絶賛しているというので、本書を読んでみた。
 もっとも本書はクルーグマンの著作を訳したものではなく、ジャーナリストの大野和基氏のロングインタビューによる語り下ろしなので、解説の山形浩生氏も書いているとおり、後半はかなり雑な話も多くなっている。
 まず、絶賛していることは間違いない。理論の中心は単純で、名目金利が低くデフレが進行する「流動性の罠」から脱出するためには、期待インフレ率を上げることが有効で、そのためには現在の金融緩和と財政出動を継続し、国民にやる気を見せることが必要だというものだ。実質金利を下げるという話は単純でそこに間違いはない。問題は期待インフレ率を上げることが実際できるか、またはそのために行う政策に持続性があるか、後年大きな経済的瑕疵とならないかといったことだろう。
 その部分で喧々諤々の議論があったことは理解できる。やってみなければわからないということもそのとおりだろう。問題はそうしたリスクのある政策を我々が暮らす日本で行っていいかということだ。しょせんクルーグマンにとっては他国のことである。「先進国でもっとも興味深い国」「いまこそ世界は日本を必要としている」と持ち上げるのは、経済学者としての学術的興味からと受け取った方が無難だろう。
 そしてクルーグマンが否定した消費税増税を安部首相は決断してしまった。法人税減税も行うと言う。こうしたどっちつかずの政策の結果がどうなるかまではクルーグマンも予測していない。もちろん我々は安部首相に期待したいが、マスコミの雰囲気は逆に動いているような気もする。日本がどこまでやり切れるか。そこが最大の課題なのかもしれない。

●日本経済における大きな問題は少子高齢化にある。その結果、投資需要は縮小し、それが実体経済に多大な影響をもたらす。しかし、そうした条件化の経済ではデフレになるのが必然である、という考え方は間違いだ。むしろ、だからこそ実質金利(名目金利―期待インフレ率)を大きく引き下げ、あるいはマイナスにしなければならない、と考えるべきではないか。そこではインフレが必要とされている。(P6)
●できるだけ規模の大きな金融緩和と実際に牽引力のある財政刺激策を組み合わせることで、国民に「インフレ率が上がる」と実感してもらうこと、そして、そのインフレ率を維持する意図を当局が公表することが、その具体策になる。(P41)
●財政については、2パーセントのインフレ目標が達成されれば、目下の問題はかなり好転する。・・・最終的には財政緊縮が必要になるが、いまの日本ではたして実際に公的債務を減らしはじめることができるだろうか。・・・あまり早く財政再建を始めることはよい結果をもたらさない。まずは、2パーセントのインフレを達成することを第一に考えるべきだろう。(P110)
●イギリスの場合、GDP比200パーセントを超える借金が、1970年代には50パーセントにまで下がった。イギリスは何をやったのか。彼らはけっして、借金を返済しようとはしなかった。穏やかなインフレと経済成長を両立させながら、少しずつ均衡策を実施していったのだ。(P127)
●アメリカをはじめとする先進国の例をみると、法人税率の引き下げとGDP成長率のあいだには、それほど関係があるわけではない。・・・法人税減税については私も反対だ。それが特定の利益団体を優遇することになるからである。(P136)