とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

貧乏国ニッポン

 テレビ朝日のモーニングショーで経済問題について解説をする姿を今春頃からよく見かけるようになった。話す内容が明晰でわかりやすい。今年5月に発行された本だが、遅ればせながら読んでみた。日本が貧しい国になりつつあることは、内田樹先日の講演会で述べていた。本書でも様々なデータを用い、日本の貧しさ、特に賃金の低さ、経済成長力の乏しさを紹介している。それは私も実感している。ではどうすればいいか。

 アベノミクスなどの経済政策は、いまだに日本をモノ作りの国であり、輸出産業が経済を支えているという幻想の上に進められている。しかし、現実の日本は既に違う経済構造の国になっている。それは、内需国家であり、投資大国だ。その強みを生かすためには、経営学の定石に則った判断ができる人材を経営トップに据え、硬直化した経営環境を改善する必要がある。「経済を決めるのは消費者の行動と企業活動であり、政府による経済政策というのは、側面支援の役割しかありません」(P199)というのは、正しい指摘だろう。

 橋本・小渕政権時代の大型公共事業を中心とした財政政策、小泉政権時代の規制緩和を軸としたサプライサイドの経済政策、安部政権時代の量的緩和策を中心とした金融政策、そして目立った経済政策を行わなかった民主党政権時代を比較すると、経済成長率が最も高かったのは民主党政権時代という指摘は興味深い。もっとも筆者は、リーマンショック後の急回復というボーナスがあったと補足しているが、経済政策の効果というのは結局、この程度のものということだ。

 そして何より今の日本にとって重要な経済政策は、消費者の将来不安を一掃することであり、「年金制度の将来像について、政府は明確な筋道を示す必要がありますし、これこそが最大の経済政策でもあるのです。」(P201)と書いている。コロナ禍における最大の経済政策もまさにこうした不安解消ではないだろうか。日本の将来がますます不安になる。最大の問題は、日本が空前の貧乏国だという事実を多くの国民が知らず、いまだに先進国の一員だと思い込んでいることだ。そして、現在の経済政策もそうした認識の上に組み立てられている。どうしたらこの洗脳状態から抜け出すことができるだろうか。加谷氏には今後もテレビ等で大いに活躍してもらい、国民の勘違いを正していってほしい。

 

 

HSBCホールディングが発表した「各国の駐在員が住みたい国ランキング」では、日本は調査対象33ヵ国中32位というショッキングな結果となりました。…実は、日本よりランクが上位の国の中に、ベトナム(10位)、フィリピン(24位)…といった国々が入っているのです。…日本は、人材供給源として想定している国よりも魅力のない場所となっており、このままでは、外国人労働者すら来てくれなくなるかもしれません。(P66)

○政府が増税を行った場合・・・徴収したお金は政府支出という形で最終的には国民の所得になります。したがって、増税を実施したことで国民の所得が減るということはあり得ません…実はこの話が成立するためには「経済の状態が健全であれば」という条件がつきます。…経済の基礎体力が強ければ、駆け込み需要や反動減という現象は最小限に抑制されるのです。激しい駆け込み需要の発生というのは、日本経済が想像以上にダメージを受けていることの裏返しと考えるべきでしょう。(P100)

○今の経済状況のままインフレが進んだ場合…ジワジワと金利が上昇し、年々、利払い費が増えて予算を圧迫。…予算が大幅に縮小された場合、年金や医療に甚大な影響が及びますし、何より、国内の景気がさらに悪化していまいますから、日本経済は大混乱に陥るでしょう。過大な政府債務を抱えたままインフレが進むと、景気が極度に悪化する可能性が高く、激しいスタグフレーションを誘発する可能性が高くなってくるのです。(P141)

○日本には投資収益を得るための莫大な資本蓄積と豊かな消費市場があります。日本は消費と投資だけで十分に豊かな生活を送れるだけのポテンシャルがあり、名実ともに消費国家・投資国家に向けてシフトしています。この現実をしっかりと受け止め、輸出やインバウンドにこだわるのではなく、強みを生かす政策にシフトすれば、再び日本経済を成長軌道に乗せることができるはずです。(P183)

市場メカニズムに沿って自ら新陳代謝するという企業活動が阻害されており、それに伴って消費者の行動も抑制されていることが日本経済の根本的な問題です。最終的にこの状況を打破できるのは政府ではなく、企業の経営者であり、私たち消費者自身です。…消費者向けについては…個人消費の拡大を阻んでいる将来不安を一掃するための施策が必要となるでしょう。…年金制度の将来像について…明確な筋道を示す必要…こそが最大の経済政策でもあるのです。(P201)