とんま天狗は雲の上

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W杯メキシコ大会準決勝 イタリア対西ドイツ「アステカの死闘」

 NHK BSで「ワールドカップ伝説の名勝負」のシリーズ放送が始まった。第1回はメキシコ大会の準決勝、イタリア対西ドイツ戦。「アステカの死闘」と呼ばれる激闘だ。昔のW杯の試合映像はこれまでもW杯が近付くたびに放映され、録画もしてきたが、この試合は観たことがなかった。西ドイツにはウーベ・ゼーラーやベッケンバウアーゲルト・ミュラーなどもいて、次の74年大会で優勝を飾る西ドイツのメンバーが多く出場している。残念ながらイタリアの選手は知らない選手が多いが、カテナチオの伝統が感じられるゲーム運びだ。イタリアの布陣は4-3-3。左WBのリーバがエース級。中盤の左IHマッツォーラはグランデ・インテルのゲームメーカーだ。対する西ドイツは4-4-2。ウーベ・ゼーラーとゲルト・ミュラーの2トップ。中盤をオリベートとベッケンバウアーで組んで、右SBフォクツは左WBリーバを密着マークする。

 この時代、ディフェンスはマンマークが基本で、マーク相手に伴ってどこまでも動いていく。それでかなり自由にポジションチェンジが行われ、DFの本来ポジションがわからなくなる。また、あまり激しくチェックに行くことはなく、ボールを持つと悠々とドリブルで運び、守備側は一定の距離を開けて下がっていく。現代サッカーと比べると、かなりのんびりした印象だ。

 8分、CFボニンセーニャがドリブルから左WGリーバとのワンツー、そしてミドルシュート。これが決まり、幸先よくイタリアが先制点を挙げた。西ドイツも17分、CHベッケンバウアーがドリブルでPA内まで持ち込んでいく場面があったが、これはイタリアDFがはね返した。21分、FWミュラーの縦パスに右WBフォクツが走り込み、シュートを放つ場面があったが、DFがボールを持ったら、けっこう大胆に上がっていく。30分、CBパッケの縦パスを受けたFWミュラーが反転からミドルシュートを放つ。ポスト左に外したが、ミュラーもけっしてワンタッチシュートだけでなく、反転からのシュートも力強く上手い。33分、右SHグラボウスキが強烈なミドルシュート。しかしGKアルベルトシがファインセーブ。GKは両チームとも上手い。またCHオリベートの技術の高さも目に付く。先制されて以降はドイツが積極的に攻めていったが、前半はそのままイタリアの1点リードで折り返した。

 イタリアは後半頭に左IHマッツォーラに代えてジャンニ・リベラを投入。リベラは代表のポジションをマッツォーラと競ったACミランの英雄だ。ドメンギーニが右SHに下がり、リベラはトップ下に入った感じ。後半も西ドイツが攻めていく。3分、CHベッケンバウアーの縦パスからFWウーベ・ゼーラーがシュート。イタリアも5分、右SHドメンギーニのパスカットからクロスにFWリーバのダイビングヘッド。GKゼップ・マイアーがファインセーブ。フォクツのマークを離れると、リーバも怖い。西ドイツもその直後、左SBシュネリンガーのクロスにFWウーベ・ゼーラーがオーバーヘッドシュート。ポスト右に外したが、ゼーラーも小柄ながらゴールに貪欲なストライカーだ。

 7分、西ドイツはレールに代えて右SHリブダを投入。グラボウスキを左SHに回す。19分、グラボウスキのクロスにCHオベラートがミドルシュート。だがバーを叩く。22分にはCBパッケに代えて左SHヘルトを投入。グラボウスキを左SBに下げたんだろうか。シュネリンガーがCBに下がったように思われる。24分、左SBグラボウスキのアーリークロスにFWウーベ・ゼーラーとGKアルベルトシが競ったこぼれ球を右SHリブダがクロス。FWミュラーとDFが競ってこぼれたボールをFWウーベ・ゼーラーがシュートするが、GKアルベルトシがキャッチした。25分にはCHオリベートのスルーパスから左SBグラボウスキがシュート。CBロサトがライン上ではね返した。西ドイツの猛攻が続く。

 38分、GKアルベルトシのキックがグラボウスキに当たってゴールライン上を転がる。FWミュラーとGKアルベルトシが飛び込むが、ボールはそのままゴールの外へ転がっていった。この時間あたりからイタリアが時間稼ぎを始める。ロスタイム46分にはCBロサトに代えてポレッティを投入。46分、FWウーベ・ゼーラーのシュートはGKアルベルトシがファインセーブ。そして47分、左SBグラボウスキのクロスにCBシュネリンガーがボレーシュート。一瞬のエアポケット。これが決まり、土壇場で西ドイツが同点に追い付いた。

 しかし本当の「アステカの死闘」はこれから始まる。延長前半4分、脱臼で右腕を包帯で体に巻き付けた姿のベッケンバウアーがドリブルで持ち上がってミドルシュート。DFにブロックされたが、選手交代が二人しか認められていない時代。ケガのベッケンバウアーもただいるだけでなく、しっかりと攻撃に絡んでいる。そして5分、右SHリブダのCKをFWウーベ・ゼーラーがヘディングシュート。CBポレッティがGKアルベルトシへ返そうとしたパスにFWミュラーが飛び込んでいく。コロコロとゴール内に転がっていくボール。ついに西ドイツが逆転した。

 ところが9分、右SHリブダのループ状のFKが西ドイツの左SHヘルトに当たってこぼれたところを右SBブルニチがシュート。すぐにイタリアが同点に追い付いた。さらに14分、カウンターでOHリベラがボールをドリブルで運ぶと、左サイドを駆け上がったSHドメンギーニのクロスにFWリーバが強烈なミドルシュートを叩き込んだ。イタリアが再逆転。リーバをマークしていたフォクツはドメンギーニへの対応で右サイドに釣り出されていた。

 しかしこれで終わらない。延長後半に入ると、3分、CHベッケンバウアーミドルシュート。5分にはCHオベラートのFKをFWウーベ・ゼーラーがヘディングで叩き付ける。GKアルベルトシがファインセーブ。そしてその直後、シュートCKから右SHリブダのクロスをFWウーベ・ゼーラーがヘディングで折り返し、FWミュラーがヘディングシュート。またも西ドイツが同点に追い付いた。まさに死闘。しかしまたその直後の延長後半6分、FWボニンセーニャがドリブルで持ち上がり、クロスにOHリベラがシュート。西ドイツゴールに突き刺す。三度、イタリアがリード。そしてそのままタイムアップ。イタリアが4-3で勝ち上がり、決勝進出を決めた。

 結局、決勝ではペレを擁するブラジルに4-1で敗戦して準優勝に終わったイタリア。だが、ロスタイムでの同点。延長戦での逆転に次ぐ逆転。最後は同点に追い付かれた上での勝ち越しゴールと、確かにここまでの劇的なゲームはそうそうない。そしてこのゲームで敗戦した西ドイツが4年後の自国大会では優勝を遂げた。ベッケンバウアーを始め、現在に語り継げられる名選手が揃っていた。ダイジェストでは見たことがあるけど、初めて120分間を通じて観戦することができた。当時のサッカーの様子も伺えて面白かった。番組はこの後、その西ドイツ代表が優勝を決めたあの伝説のオランダとの決勝戦、アルゼンチンが自国で初優勝を遂げた80年大会の決勝などが放送される。まだ90分を通して観たことのないゲームも多い。録画して楽しむことにしよう。