とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

救世主監督 片野坂知宏

 先日読んだ「監督の異常な熱情」は面白かった。著者ひぐらしひなつの新刊本が出版された。トリニータ番として片野坂監督を追いかけた本だ。期待を持って読み始めた。

 相変わらず、ひぐらしひなつの文章は楽しい。だが本書は、J1昇格を決めた2018年の全ゲームと、J1昇格後の第10節サンガ戦までの各ゲームについて、その内容とトリニータの戦術などをその前後の情報も含めてまとめたもの。たぶん筆者が「EL GOLAZO」誌などで執筆した記事をベースにまとめ直したものだとは思われる。シーズン開幕戦の盛り上がりや、J1昇格を決めたゲームでの様子など、試合ごとの多少の軽重はあるものの、書きぶりは情熱的だが、内容的には淡々と書き重ねられており、その点ではどうしても平板な感じがしてしまう。

 もちろん監督や選手にとってはどのゲームも同じ90分であり、どれも同じだけの準備と必死さでプレーをするだろうから、筆者の書きぶりもわからないではないが、カタノサッカーの戦術的な考え方や変化などを知りたいと思った読者には、材料は提供するからそれぞれ理解してくれという感じになる。でも、どのゲームでも同じくらいに興奮し、楽しむことができるトリニータ・サポーターには、どのゲームも同じだけ重要だし、本書を読みながら、「ああ、そうだった」と思い出すのだろう。

 だから本書はトリニータ・サポーター、片野坂フリークのための本だ。でも楽しさはすごく伝わってくる。グランパス・サポーターをやめてトリニータ・サポーターになった方が楽しそうだ。風間監督にも片野坂監督と同じほどの熱さが伝わってくると、たとえ負けても「次があるさ」と思えるだろうに。トリニータ・サポーターがうらやましい。グランパスにもそんな勝つためのサッカーを見せてほしい。

 

救世主監督 片野坂知宏

救世主監督 片野坂知宏

 

 

○「DAZNはテクニカルエリア専用カメラを置くべき」/「カタさんもGPSで走行距離を計測するべき」/あまりにアグレッシブなコーチングスタイルにそんな提案が相次ぎ、SNSでは面白がって誰かの作ったヒートマップがすごい勢いで拡散された。……「いや、そんな目立っちゃってますか。僕はただ90分間、選手と一緒に戦ってるつもりなだけなんですけど。僕じゃなくて選手のほうにもっと注目してください」(P14)

○カタさんはつねづね「一人の選手に頼るようなサッカーはしたくない。その選手が怪我や出場停止で欠けたとき、いつものサッカーができなくなるようなチームではあってはならない」と言い続けてきた。それを忠実に落とし込んだ編成で、徹底的に組織と連携にこだわった形だ。/言うなれば、全員が脇役。/だが、舞台に立つ全員が脇役であるとき、それは全員が主役であるのと同じだ。(P18)

○位置的優位、質的優位、数的優位の3つの観点で組織を構成し動かすポジショナルプレーの概念を、従来の可変システムの考え方に上手く組み込みながら戦術やプランを組み立てている。/それは綿密なスカウティングを行った上で施す、直近の試合に向けた一試合限定の作戦ということになるのだが、その一戦での経験は経験値やデータとして上積みされ、決して一回きりで終わらないところがミソである。/「相手がどう来ても対応できる。いや、もっと言えば、こちらがどうしたいのかが相手にはわからないようにしたい」(P139)

○カタさんが監督に就任してから現在に足るまでのサッカーは、基本的なところは変わっていないけれど、細かいところで少しずつ変化している。それは試合ごとの“仕掛け”に表れていて、それを見ながら「あ、変化しているな」と思っているうちに、あるときふと「ああ、カタさんは世界の捉え方が変わったんだ」と気づいたりする。……カタさんは世界観や理論がブレない。……で、軸はブレないながら、どんどん変容していくから面白い。……行きつく先は世界征服だ。(P220)