とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

長期腐敗体制☆

 「長期腐敗体制」というタイトルからは、安倍政権から現在まで続く自民党政権を批判する本だとは知れるが、単に政権批判の本ではなかった。2012年の年末、衆議院解散総選挙自民党が大勝し、安部二次政権がスタートしてから現在までの状況を「2012年体制」と呼び、それを筆者の「国体論」から先の体制として位置付け、考察をしたものだ。ちなみに「2012年体制」は、上智大学教授の中野晃一氏が「47NEWS」に投稿した記事「菅内閣誕生で完成『2012年体制』の悪夢」で初めて使われた言葉だそうで、それを遠慮してか、本書は「長期腐敗体制」というタイトルになっているが、実は「長期腐敗体制」という言葉は本書ではほとんど使われておらず、できれば「2012年体制」というタイトルしてもらえばよかったなあと節に思う。

 戦後、サンフランシスコ講和条約が調印されて4年後、保守合同による後に「55年体制」と呼ばれる状況が成立した。そして、ソ連が崩壊し、東西冷戦が終了すると程なく、1993年に細川政権が誕生し、「55年体制」が終焉する。その後、小泉内閣民主党政権の登場を経て、2012年に第二次安倍政権が成立。2020年に安部晋三が再び政権を投げ出した後も、菅内閣、岸田内閣と繋いで現在に至る。この第二次安倍政権以降の体制を総称して「2012年体制」と呼んでいる。

 この間、モリカケ事件や桜を見る会など一連の騒動があり、東京五輪が強行され、また新型コロナ対応などでもけっして芳しい結果を残していない。しかし自民党は選挙では勝ち続けている。こうした状況を分析するに、筆者は自身の「国体論」を置く。戦前の天皇に代わり、アメリカが国体として君臨してきた戦後だったが、冷戦終結以降、アメリカの衰退が徐々に始まっている。こうした中、日本は独自の国家運営を模索するのでなく、対米従属を護持しようとする。「対米従属を通じた対米自立」だったはずが、最終目的の「国家としての自立」は忘れられ、純粋な権力保持の欲望のみで国家が運営される。そして国民もそれを歓迎し、選択する。ただ、従前の体制の継続を望み、「パンとサーカス」に安寧する。「民主制の堕落態としての衆愚制」。

 大衆はこの2012年体制が愚の骨頂であることを理解しながら、そこから抜け出そうとしない。この状況からどうすれば抜け出せるのか。終章では「今日本人が問われているのは、各人がそれぞれの持ち場で、その持ち場が本質的に要求することをどれだけ真剣にやり遂げられるか、ということではないでしょうか。」と書かれている。だが、どうすれば少しでも多くの人がそのことに気付き、行動を始めるだろうか。

 本書は安部元総理襲撃事件以前に刊行されている。今、その事件を契機に、統一教会問題が大きく政界を揺るがせている。今月末には国葬も実施される。そうした事柄が多くの国民の目を覚ますだろうか。2012年体制が一時の蒙昧な時代として語られるようになるのはいつだろうか。その日は本当に来るのだろうか。

 

 

原発事故で何よりショッキングであったのは…それまで「エリート中のエリート」だと見なされ…てきた人々が、これほどまでに無能・無力・無責任であったことが明らかになったことです。…その過酷な現実を見たくないという否認の欲望…「何も深刻なことは起こっていない、私たち日本人は今までどおり豊かで幸福なんだ」、と。このショックに対する反動形成、否認の欲望の体現者として安倍政権が成立していきます。(P24)

○一体、安倍政権とは何だったのか。…2012年体制とは何なのか。…それは、「戦後の国体」の終焉を無制限に引き延ばそうとすることにほかありません。つまり国体護持なのです。…この「国体」が徹底的に批判されなければならない理由は単純です。それは、「国体」がその中に生きる人間をダメにする、そこに生きる人間に思考を停止させ、成熟を妨げ、無責任にし、奴隷根性を植え付ける、そのようなものだからです。(P85)

アベノミクスの異次元金融緩和はうまくいきませんでした。ただし、反対派が懸念したような大崩壊も起きませんでした。異次元金融緩和の本質は、日銀による市中銀行保有国債買い上げによって供給された貨幣が、日銀当座預金口座に滞留している、ということです。今もまだ滞留しているのが、重要な本質です。(P112)

○「対米従属を通じた対米自立」…の合理性を支えた最大の根拠が、東西対立の終焉によって消滅します。…自己目的化した対米従属という…権力の構造に乗っかって権力者の地位を与えられた面々…に、自らこの構造を壊すことはできない。…そのとき、ここに残るのは、純粋な権力保持の欲望のみです。…そのためには手段を選ばない。東西対立の終焉以降で、自民党は純粋権力党の性格を色濃くしていきました。(P167)

○2012年体制は、戦後日本社会全般の行き詰まりと劣化の産物そのものでした。…現状を見る限り、大衆のシニカルな自意識を満足させる餌を投げることに長けた人々が、政治的に勝利を収め続けています。…今日本人が問われているのは、各人がそれぞれの持ち場で…本質的に要求することをどれだけ真剣にやり遂げられるか、ということではないでしょうか。…私たちは抵抗することをあまりにも長い間忘れてきてしまいました。…この退廃を基盤として、腐敗の大輪を咲かせたのが…2012年体制でした。(P241)

 

ルポ 誰が国語力を殺すのか

 久し振りに石井光太を読んだ。社会の最底辺の人々を取材し、ルポタージュしてきた石井。だが、それは読む者にとっては、少ししんどい。「国語力」というテーマなら多少は気楽に読めるかなと思い、本書を手に取った。でももちろん石井光太が取り上げる現場は、社会の最底辺であり、裏側であり、暗い隙間の世界だ。

 いじめにあっても無抵抗に受け入れる子供。教育崩壊、SNSによるネットいじめ、不登校、ネット依存、非行、そして自殺。こうした状況に対して、何とか子供たちを救おうと奮闘するフリースクールや依存症回復支援を行う民間組織、少年院での言語回復プログラム、そして小中高での取組み。残念ながら、最前線で国語力育成の取組を進める学校はいずれも私学であり、生徒たちの家庭環境も上位カーストに位置する。それでもそれらの取り組みは公立校でも可能だと筆者は言う。

 大学で講義を持っていると、最後は必ず履修学生の成績評価をしなくてはならない。私の場合、講義の途中でレポートの提出を求め、定期試験は記述式で実施している。本来であれば、教科の理解度などで評価すべきだが、採点をしていると結局、文章力の高い学生を高く評価することになってしまう。私自身、けっして文章力が高い訳ではないが、それでも論理的思考を進めるのに、国語力は不可欠だ。その上で、表現力などがあり、文章力として表れる。やはり国語力は何をするにも最低限必要な能力だ。

 「誰が国語力を殺すのか」という刺激的なタイトルだが、具体的に誰それ(例えば文科省)と指弾しているわけではない。文科省教育委員会などに対してもある程度の理解を示す。だが、現場は確実に悪くなっている。それを一部のボランティアや心ある教員に任せていればいい訳ではない。やはり組織的な対応が必要だろう。「国語力の低下=国力の低下」という指摘には説得力があると感じずにはいられない。そして多くの人が国語力を手放した社会は、たぶん相当に住みにくい社会だろうと想像する。

○私が思うに国語力とは、社会という荒波に向かって漕ぎだすのに必要な「心の船」だ。語彙という名の燃料によって、情緒力、想像力、論理的思考力をフル回転させ、適切な方向にコントロールするからこそ大海を渡ることができる。…社会でうまく生きている人たちは…「自己責任」という言葉で切り捨てる。それが世の中の分断を大きなものとしていき、同じように言葉を持てない者たちが生まれ、新たな社会問題に搦めとられていく。(P24)

○国語力という基盤がなければ、砂上の楼閣だ。日本語でしっかりと物事を考えて表現できない人が英語で何を語ろうというのだろう。…今の日本の教育において盲点になっているのは、まさにこの部分なのではないか。…「今の学校教育のやっていることはズレていると思います。生徒は中身がスカスカなのに、次から次に新しいことばかり上から被せようとする。これじゃ、基礎能力の…ない子は逆に負担に耐えられなくなってつぶれるだけです。(P100)

○世の中には大きな問題を抱えてい…る子供たちが一定数おり、彼らが…ゲーム依存になっているからこそ…社会として制御が必要だと考えているのだ。…ゲーム業界はあの手この手をつかって、特に社会的に弱い立場にある子供たちをゲーム依存に引きずり込んでいるといえなくもない。彼らはそこでさらに言葉を奪われ、自分の苦しみをつたえることも…できずに沼にはまっていく。…中高生のネット依存約100万人という現実の根幹にある問題を、私たちは危機感を持って考えるべきだろう。(P218)

○「日本の学校では、国語は身近すぎて軽視されがちですが、生きることに困難を抱えている人の大半は言葉に問題を抱えています。その苦労を知らない頭のいい大人たちが、彼らを『ちゃんとやれ』と叱っても効果がないんです。それなら、きちんと学び直しの機会をつくり、“考える力”“他者への想像力”“論理力”をつけさせるべきです。(P251)

 

FIFA U-20女子ワールドカップ 決勝 スペインvs.日本

 U-20ワールドカップのいよいよ決勝戦を迎えた。日本は無敗のまま5連勝して決勝まで進出。前回大会に続いての2連覇を目指す。相手は前回と同様、スペイン。スペインもここまで4連勝。準決勝でオランダに1失点したが、そこまでは無失点。8得点の攻撃力も備えている。

 スペインの布陣は4-4-2。ガバーロとパラルエロの2トップに、右SHエレスプル、左SHマルティネス。ボランチはミンゲサとバルテル。SBは右にラボルデ、左にメディーナ。テハーダとロリスのCBにGKはフォント。オランダ戦と同じ先発メンバーを揃えた。対する日本も準決勝と同じ先発陣。山本と浜野の2トップに、右IH藤野、左IH岩崎。アンカーは大山。右WBに杉澤、左WBは小山。CBは右から田畑、石川、長江。GKは大場。思い切ってプレーしてほしい。

 と思ったが、序盤、スペインの方が前からボールを追い、パスを繋いで攻めていく。一方、日本はパスミスが目立つ。押し込まれた展開が続いた中、12分、右SHエレスプルの縦パスにFWガバーロがラインぎりぎりで飛び出し、シュート。スペインが先制点を挙げた。日本は15分、FW浜野のミドルシュートは最初のシュート。なかなか攻め込んでいけない。そして22分、左SBメディーナからのフィードがCB石川の上を越えて、入れ違いにFWパラルエロが抜け出す。落ち着いてシュートを決めて、スペインが追加点を挙げた。

 25分、CH大山の縦パスを受けたFW浜野がシュートを放つが、GKフォントが難なくセーブ。そして27分、左SHマルティネスのクロスをFWパラルエロが落とすと、対応したCB石川の手に当たる。主審はPKを宣告。これをパラルエロが決めて、前半のうちにスペインが3-0とリードした。ここで日本は藤野をボランチに下げ、布陣を4-4-2に変更する。杉澤を右SHに上げて、田畑が右SB。これでようやく中盤が落ち着いた。

 32分、CB長江の縦パスをFW山本が落とし、FW浜野のスルーパスに右SH杉澤が走り込んで、シュート。惜しくもポスト左に外す。33分にはCH藤野のクロスからFW山本がシュート。GKが弾いたボールを山本が拾って、落としをFW浜野がシュート。これもDFがブロック。こぼれ球をCH大山が右に展開すると、右SH杉澤のクロスにFW浜野がバイシクルシュート。枠は外したが、ようやく日本が攻められるようになってきた。39分にはFW山本のクロスに右SB田畑が走り込み、シュート。GKフォントがナイスセーブで弾き出す。前半はこれで終了。スペインが前半だけで3-0とリードした。

 すると日本は後半最初、長江と岩崎を下げて、CH天野と左SH松窪を投入。田畑をCBに下げ、杉澤を右SB。藤野を再び右SHに上げる。スペインもマルティネスを左SHベニテスに交代する。すると開始2分、中盤右サイドのFKをFW山本が左に流す炉、左SB小山のフィードをCB石川が落とし、CB田畑がつないでCH天野がシュート。日本が1点を返した。その後は前半と一転、日本がパスを繋いで攻めていく。15分には左SB小山のクロスのクリアをCH大山がDFと競って、こぼれ球を左SB小山がミドルシュート。だがこれもDFがブロックする。

 守るスペインは17分、ラボルデを下げて、右SHにウリアを投入。エレスプルを右SBに下げて、パラルエロが左SH。ベニテスはトップ下に入る。18分、CHミンゲサがミドルシュートを放つが、GK大場がキャッチ。その後も日本が攻めていく。しかし守備を固めるスペインに対して、なかなか決定機を作れない。26分、FW山本が遠い位置からロングシュート。29分にはCH大山のフィードにCB石川がヘディングシュートをするが、枠は捉えられない。

 スペインは30分、ミンゲサとガバーロを下げて、CHマジリンと左CBスビエタ。布陣を5-4-1にして守る。さらに32分にはパラルエロを下げて、左SHサラソラを投入。ウリアがワントップ。バルテルとサラソラが左右に開き、ボランチにマジリン。ベニテスは中央で高い位置までプレスをかけていく。日本も38分、FW山本に代えて土方。40分、FW浜野がミドルシュートを放つが、わずかにポストの右。43分にはCH大山を下げて、FW島田を投入。4-3-3にして攻めるが、スペインの守備が堅い。結局このままタイムアップ。3-1。スペインがU-20ワールドカップ優勝。前回大会のリベンジを果たした。

 日本は準決勝。前半30分過ぎにダブルボランチにしてようやく落ち着いたが、それまでスペインの中盤を抑えられず、失点を重ねてしまったのが残念。後半は日本が攻めたが、やはり3点差は大きかった。それでも6試合はどれも簡単なゲームはなく、その中でもしっかりと戦って決勝まで勝ち上がっていったのは見事。特にフランス戦、ブラジル戦の痺れる戦いを勝ち抜いたのはいい経験になる。数年後、このメンバーから何人か、なでしこジャパンのメンバーに入っていることだろう。この大会を糧に彼女らがさらに成長することを期待したい。次々回以降のW杯が楽しみになる。