今年の冬から春先にかけて「大人のための数学」シリーズを読んだが、第5巻で降参してしまった。本書では、このシリーズでも取り上げられていた集合論や位相空間はもちろん、グラフ理論、ホモロジー理論、ホモトピー理論、記号論理学とゲーデルの不完全性定理、さらにはファジイ理論やフラクタル理論、カタストロフィー理論など、多くの現代数学の成果をやさしく解説してくれる。前にも挫折した集合論や位相論のところでは、再び迷路に入りかけたが、深入りせずあっさりと結果を披露してくれるので、内実わかってないのもかかわらず、そのことを引きずらずに次へ読み進めることができる。
全編を通しての大きな主題は、『「モノ」から「コト」へ、そして再び「モノ」の世界へ』である。数字や図形そのものから関係性に注目する抽象数学の世界へ。その経験を通して再び実体的な世界へ戻ろうとするとき、「モノ」は複雑な構造を内蔵した「モノ」として立ち現れる。本書を読むと、筆者の言わんとすることが確かに分かるような気がする。
この他にも、四次元空間にだけ存在する異空間の存在の話やコンピュータと数学の関係など、意外に面白い話題が詰まっている。これで再び現代数学に挑戦、などと無謀な勇気は持たないが、春先のコンプレックスが少し癒えて、再び平常心で現代数学を見られるようになったかもしれない。いやぁ、やっぱり数学って面白いよね、ね。
はじめての現代数学 (数理を愉しむ)シリーズ (ハヤカワ文庫NF―数理を愉しむシリーズ)
- 作者: 瀬山士郎
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2009/03/31
- メディア: 文庫
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●現代数学では点とは何か、直線とは何かということは定義せず、点と直線の関係のみに関心を払うのである。(P56)
●質とはアナログ的なものであり、質の違いを何らかの方法で表現し差異化するためには、そのアナログ量を群というデジタル量に変換することがどうしても必要だったのである。むしろ逆に、質というアナログ量はデジタル量で差異化されて初めて質として認知されることができたともいえよう。(P130)
●人はおそらく非論理的にものを考えることなどできないのではないだろうか。各人がその個性にしたがってスキップしながら物事を判断する。そのスキップの仕方に違いがあるに過ぎない。しかし・・・第三者を説得しようとしたとき、その論理のスキップの仕方が噛み合なかったとすると、自分で分かっていることを他人に説得力を持って説明することができなくなる。(P150)
●でたらめさは確率というすでに確立した数学で精密に扱える「モノ」であり、一方あいまいさは「モノ」ではなく「コト」であって、これは確率的現象とは異なる。(P195)