とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

サッカー批評49

 今季号の最大の話題は、日本サッカー協会前会長・犬飼基昭氏へのスペシャルインタビューだ。『「回想録」不都合な真実』と付けられたこのインタビューで、犬飼前会長の口から、大方の予想に違い1期で退任してしまった理由について、思いがけない内容が披露される。なんと、川渕名誉会長の意向を受けて田嶋副会長(当時専務理事)が動き、犬飼氏の改革を妨害。その陰湿で仲良しクラブ的な体質に嫌気が差し、理事選挙では過半数を獲ったにも拘らず辞任をしたというのだ。
 もちろんこれは犬飼氏の一方的な言い分であって、真実はどうかわからない。ただ、秋春制移行への執着など、突飛な発言には驚かされていただけに、協会内部でも反発は少なくなかったのだろう。本記事を読むと、協会の内部改革にも大胆に手を付け始めていたと言う。これらが嫌われた結果のクーデターというのは十分考えられる話だ。
 この記事を書いたミカミカンタ氏も、川渕名誉会長や田嶋副会長の反論を聞きたいと言っている。それに応えない限り、やはり現協会の内部に問題があるという懸念を拭うことができないのは仕方ないことだろう。ぜひ透明で公正な議論がされることを期待したい。
 それ以外にも、今季号は興味深い記事が満載だ。松井大輔川口能活のロングインタビュー、ジェフ千葉の米田コーチによる技術論「日本でシャビ、イニエスタは作れるか?」。石井紘人氏による「『審判』との向き合い方」も、先日、家本正明審判の「主審告白」を読んだが、それにも相通じる「なぜ日本人審判は海外で評価が高く、国内では酷評されるのか」が描かれており興味深い。
 さらに、宇都宮徹壱氏の「タイ・プレミアリーグの日本人」。「東京ヴェルディの生還」と「混迷―大分トリニータの2010年を徹底検証する」はクラブの経営問題を取り上げている。さらには「シャビとイニエスタの父親対談」まであって、思わず笑みがこぼれる。
 これは近年になくいい内容の号になっている。ミクシーでも話題になっていたし、サッカー批評もついにブレイクするかもしれない。次号は予約しないと購入できなかったりして・・・。そんなことはないか。でも久しぶりのヒット、いやベストシュートだと思う。次号にも期待したい。

サッカー批評(49) (双葉社スーパームック)

サッカー批評(49) (双葉社スーパームック)

●私がおかしいと思うのは川渕さんは名誉職ですよね。名誉職というのは普通に考えればもう引退している身ですよ。その人間がなぜ一番重要な人事権を実質的に持っているのかというそこの部分なんです。・・・協会のトップは会長であって名誉会長ではありません。(P014)
●パスワークが出し手と受け手、両方の共同作業であるのはいうまでもない。ただ、米田氏は「受け手で調整する」ことが重要だという。・・・自分の予測と違うパスが来た、ズレた、何か不測の状況になった。そういうときのイメージの予測能力、そのスピードに驚嘆させられる。・・・起きてしまったことではなく、今、起きていること、そしてこれから起こるだろうことを考える。「マインドを変えることでも、修正能力は向上できます。(P056)
フットボールは最もグローバルなスポーツである。選手もフロントも、そして指導者も、国内に仕事がなければトランクひとつで国外に自身を売り込む身軽さを身上とすべきだろう。海外移籍とは、何も限られたエリート選手だけのものではない。それこそ、日本でのプロ経験のない選手であっても、東南アジアやアメリカに渡って夢を実現させている例は、十指では足りないくらいだ。/好むと好まざるとにかかわらず、日本人が国内で安穏と暮らしていられる時代は終わろうとしている。このまま日本の国際競争力が低下していけば、いずれ東欧や南米や東南アジアの人々のように、日本人が国外へ出稼ぎに行くのが当たり前になるのかもしれない。そんな時、海外へ挑戦するリスクをチャンスに変えようと奮闘するジャパニーズ・フットボーラーの姿は、われわれにささやかな勇気と示唆を与えてくれるのではないか。(P073)