とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

言った覚えのないことに感動し大事をなす人

 T社のS部長がいよいよ今年定年を迎える。先日、久しぶりに呑む機会があり、対面で昔話を語り合った。S部長は昔から私のことを高く評価してくれている。「私たちが初めて知り合ったのはいつでしたかねえ」と聞くと、平成2年頃だという。その時、困ったことがあり、わが社に相談に来た。お相手をしたのが私で、その時の言葉に衝撃を受けたと言う。
 しかし、実はその頃はまだ、相談に来られたような件について私は担当していない。私が担当したのは平成4年からだ。どこかで記憶違いがあるらしい。人か、時期か。
 でもその時に聞いた言葉というのは、さも私が言いそうなことではある。言いそうなことではあるが、言った覚えはない。いや、その頃はみんなに同じことを言っていたのかもしれない。「みんなの機運が盛り上がっているのならやればいい。無理に進めても成功しない。」当たり前すぎる言葉だ。
 しかしS部長は私のこの何気ない言葉に衝撃を受けて、部下や関係者を回り、事業を進めたという。現実にはその相談案件は流れたが、その一件以来、私を高く評価してきたと言っていただいた。
 そんなこと言われても、こそばゆい。別に大したことを言ったわけではない。当たり前のことを言っただけ。しかし、その何気ない当たり前の言葉から、その時のS部長にとって大事なことをくみ取り、その後の仕事に生かして、T社でも一目置かれる存在として部長にまで上り詰めた。
 私がS部長の出世に何某かの寄与をしているとすればうれしい限りだが、これはひとえにS部長の人徳と言える。私のようなことを話す人間はどこにでもいるが、それを自分に合わせて咀嚼し、生かしていける人間は少ない。S部長には本当に多くのことを教えられ、またお世話になった。