とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

トゥルー・ストーリーズ

 ポール・オースターと言えば、「ナショナル・ストーリー・プロジェクト」が有名だ。もっとも私が読んだのは、この企画の日本版として募集し、発行された「嘘のような本当の話」の方だ。本家の「ナショナル・ストーリー・プロジェクト」はまだ読んでいない。それで図書館で本書を見つけたとき、元本かと思って手に取った。借りるときには別の本ということは理解していたが、それでもやはり期待していた。何を? 嘘のような本当の話を。

 期待していた話は最初のエッセイ「赤いノートブック」にいくつか収録されている。危機一髪で命を救われた話。偶然中国で出会った人の姉が同じアパートの同じ階に住んでいた話。一緒になるといつもパンクをする友人。・・・。でも本書のかなりの部分は自伝的エッセイ「その日暮らし」が占めている。ポール・オースター・ファンなら面白いだろうか。でも初めて読むと、どうして自分はこの冗長な話を読んでいるのだろうという気がしてくる。たぶんポ-ル・オースターの作品を一つも読んでいないからだ。

 後半に置かれた中では「スイングしなけりゃ意味がない」が面白い。そして雑多なエッセイを集めた「折々の文章」。9.11直後の覚書からブッシュ批判も。そして「戦争に代わる最良の代替物」はサッカーについて書かれたものだ。オースター自身は野球ファンのようで、「その日暮らし」には野球ゲームを考案して売り込んだが、結局モノにならなかった話も載っている。が、その彼からみたサッカーはやはりサッカーだ。正当に評価している点が興味深い。

 ポール・オースター・ファンには楽しいエッセイ集なのだろう。私が読むにはまだ早すぎた。でも本書を読んでポール・オースターの作品を読もうという気は起きてこない。誰かこれぞポール・オースターという作品を紹介してくれないか。本書が楽しく感じられるような作品を。

 

 

トゥルー・ストーリーズ

トゥルー・ストーリーズ

 

 

○本というものは決して書き終えられはしないこと、物語が作者抜きでみずからを書きつづけることもありうることを私は思い知らされた。(P40)

○私の人生には、これまでこうした奇妙な出来事が何十となく起きてきた。私がどれだけあがいても、こうした偶然から逃れられそうにない。こんなナンセンスに私を際限なく巻き込むなんて、世界はいったいどうなっているのか?(P211)

○オランダ対スペイン。イングランド対フランス。ポーランド対ドイツ。過去の反目の不気味な記憶が、一試合一試合に漂っている。ゴールが達成されるたびに、昔の勝利と敗北のこだまが聞こえる。(P246)