鈴木邦男と言えば元一水会代表として有名な右翼の論客。そんな人間と内田樹との対談ということで、どんなことが話されるのか、お互いの主張がぶつかり合って面白い展開が見られるのではないかと大いに期待した。しかし内容はそんなことにはならない。まず口絵を飾る鈴木邦男の温和な顔にびっくりした。内田樹の方がよほど強面だ。そして「はじめに」で鈴木邦男が「本書は超『対談本』だ」と言うのだけれど、実際に読み進めると、もっぱら鈴木邦男のインタビューに内田樹が答えるような形で対談が進んでいく。もっと鈴木邦男の思想が聞きたいのに、いつもの内田節を読むことになってしまう。
内田樹の話は面白いからいい。だがもっと鈴木邦男を知りたかった。それが本書を読んでの一番の感想だ。鈴木邦男も若い頃、合気道をやっていたそうで、武道を巡る話などは興味深い。また第4章は映画「仁義なき戦い」を鑑賞し、それから対談に進む。「仁義なき戦い」から映画論、アメリカ論と移り、政治論になっていくのも面白い。もっとも対談集にありがちだが、どんどん話題が移っていくのは困ったことだが。
読んでみると意外に楽しい。内田樹もとっても喜んでいる。二人で映る写真の笑顔が本当に楽しそうだ。そういう意味では鈴木邦男は内田思想をうまく引き出す名インタビュアーということかもしれない。予想もしていなかった進み行きだけど。
○グローバル資本主義者たちは政情が不安定になり、治安が悪くなり、人々が互いに不信感を抱き・・・親族組織や地域共同体が壊滅することを願っている。彼らがナショナリストに親和的なのは、一つにはそのせいです。いまの日本のナショナリスト、在特会のような極右は国民統合なんか全然望んでいない。・・・国をできるだけ分断したいのです。・・・まさにこれはグローバル資本主義者にとっては願ってもない話ですから。(P48)
○礼儀正しくさせたいのなら、「礼儀」という教科を作ればいい。・・・そこで、正座の仕方や、お辞儀の仕方を教えればいいじゃないですか。なんでわざわざ武道を道具に使うのか。武道の目的は、一人ひとりの生きる力を高めることにあるので、礼儀正しくなるというのは、その副産物ではあっても、目的などではない。そういう矮小な目的のために武道を功利的に利用するなんて、言語道断ですよ。(P157)
○(鉄人28号は)戦後民主主義の無垢な魂が大日本帝国の軍事力を平和利用する。悪い人間が操縦すると悪をなす兵器も、心の清らかな戦後民主主義の少年が操作すると正義の力を発揮する。そういう物語なんです。・・・でも、もう一つ読み筋がある。それは巨大ロボットが在日米軍で、それを制御する無垢な少年が日本という構図です。米軍という巨大な暴力を日本の少年の美しい魂が効果的に制御することで世界に平和がもたらされるという物語。(P192)
○敗戦の時、日本海軍に依存していた人は、依存対象が消滅したら、こんどはそれに替わる愛の対象を探すしかない。そして、そこにはアメリカ海軍しかなかった。・・・それまでは天皇制に依存していた人たちが今度は対米依存に切り替わるんです。・・・天皇制依存からアメリカ依存に「居抜き」で移行しちゃったから、アメリカを批判するロジックがないんです。(P230)
○自由主義先進国でマルクス主義を党是に掲げている政党が国会に議席を持っているのは、日本とフランスだけじゃないですか。・・・それだけ日本は政治的言論に関して寛容だということです。・・・敗戦国のくせに、自国の敗戦理由について定見を持たないというのは、見ようによってはグズグズですけど、見ようによってはそれだけ自由な国であるとも言える。(P248)