とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

面白くて眠れなくなる社会学

 社会学者・橋爪大三郎が中高生のために書いた社会学の入門書。というか、社会学への誘いの本。ということを図書館で借りる前に知っていれば借りなかったのに。でも読んでみると意外に新鮮。一般の社会学の本のように何かの知見を説明しようとする本ではなく、社会学の世界ではもう既にわかりきったことを、その結論、エッセンスだけ紹介する。だからわかりやすい。そして門外漢の私など、ところどころで「へぇー、そうだったのか」と新しい事実に巡り合う。
 言語、戦争、憲法など、3章に分けて全部で16の項目について社会学的に紹介する。今上げた3つに加え、他には、貨幣、資本主義、私有財産。ここまでが1章。社会制度的な事項が多いかな。2章は、性、家族、結婚、正義、自由。こちらは家族的な事項と言えばいいだろうか。そして3章で、死、宗教、職業、奴隷制とカースト制、幸福。これは心に係る事項だろうか。
 こうしてみると、改めて社会学って広い、と思う。社会学者として挙げられ、私が読んできた人々も実に多様で、対象としている事象も、対象への迫り方も人それぞれだ。例えば、見田宗介山田昌弘大澤真幸、山下祐介、宮台真司、若林幹夫・・・。みんな社会学者だ。そして本書はこうした裾野の広い社会学を網羅的に、かつ対象への基本的な姿勢を示しつつ、社会学の本質を説明する。そうか、何でも「社会」に起きる出来事で、歴史や経済や政治や倫理や哲学などの専門分野に入らないものは全て社会学なんだ。いや、これらの領域であっても、これらの学問特有の決まり事に捉われないで、その対象を考察し論証していくことは全て社会学なんだ。そんな理解でいいのかな。
 昔、ある工学者が「社会学者は社会の問題の実態や原因を調査するが、工学者は解決方法を検討する」と言っていた。しかし社会の底の底まで探れば、根本的な解決方法が見つかるだろうか。本書で紹介された事項も根本的に考えることで、根本的な解決方法が見つかるだろうか。根本的な事柄は簡単には修正することは困難だろうが、それを知っていることは多分きっと役に立つ。少しは楽に生きられるようになるだろう。やっぱり社会って面白い。

面白くて眠れなくなる社会学

面白くて眠れなくなる社会学

●文学は、人間が一人ひとり個性的で、個別の存在であることにこだわります。世界でたった一人のAさんの独自な世界を描き出すことで、人間の本質を照らし出すことができると考えるのです。それに対して社会学は、大勢の人びとの共通点にこだわります。そこに法則性があって、科学の方法で解明できると考えるからです。(P006)
憲法は、手紙です。/人民から、国にあてた手紙。その国の政府職員に向けて、こうしなさいと約束させるものです。・・・一般の法律は、国が決めて、人民が守ります。・・・憲法は、この向きが正反対です。人民が、約束を守らせる側。国(政府や議会や裁判所)が、約束を守る側です。人民が政府に言うことを聞かせるところに、憲法の本質があります。(P036)
●親密な男女は、家族をつくって、群れの全体から自分たちを隔てるのですね。それで、家族の外の人びとに対するときには、家族の中の人びとと対するときとちょっと違った行動をする。・・・その合図として、服を着るのも、人間の特徴です。/社会の場では、服を着ている。そして、親密な間柄では、服を脱ぐ。服を着ていれば、恥ずかしくないのです。いまは社会モードだという意味になります。(P105)
●自分が死ぬことと、残される人びととが、つながっているという感覚が、人間が死ぬということの特徴です。(P187)
●結婚だけはできる下から二番目の奴隷を、古代ローマではプロレタリアといっていました。マルクスがそれを、古代史の研究者から教えてもらって、資本家のもとで働くしかない境遇の工場労働者とよく似ているというので、マルクス主義の、無産労働者のよび名にしたのです。(P225)