とんま天狗は雲の上

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自治体クライシス

 先週の13日の金曜日に、NHKで「地域発!どうする日本『危機の自治体』」という番組をやっていた。たまたまチャンネルを合わせたものだが、「住民の最低限の生活を奪ってまで、金融機関への債務返済を優先するのはおかしい」という発言に、思わずぎょっとして見入ってしまった。
 自治体財政健全化法という法律がこの春から施行されると、多くの自治体が夕張市と同様の財政再生団体に指定されかねず、地方の自治体の多くで住民サービスの切り下げが始まっていると言う。途中からだったので最初からきちんと見てみたいと思った。そんな矢先、図書館で本書を見かけ、さっそく借りてきた。
 筆者の伯野卓彦はNHKで「クローズアップ現代」や「NHKスペシャル」を担当してきたということなので、テレビの方も筆者のプロデュースによるものだったかもしれない。本書も「クローズアップ現代」のための取材を通して得た情報を元に執筆されている。
 取り上げる市町村は、青森県大鰐町、長野県飯綱市、そして北海道赤平市。前の2市町は、第三セクターを設立し建設したスキー場やリゾート施設の経営が傾き、自治体財政が大きく悪化した事例。第三セクター事業実施のため融資を受けた際に市町村が金融機関と結んだ「損失補償契約」が大きな枷となっているという。この契約は、第三セクター破綻時には自治体が借金の肩代わりをすることを約したもので、ほとんどは一括返済をすることになっており、財政規模の小さな自治体ではとても負担できない。かと言って、第三セクターを存続させたところで赤字が増えつづけるだけというどうしようもない状態になっているという。三セク設立時の町長や財政立て直しに必死になっている当事者たちへのインタビューは、凄惨なもので思わず心が詰まる。
 また赤平市の事例は、市立病院を守るために、職員数の大幅削減や給与カットなど血がにじむ、いや血が滴り落ちるような努力を重ねる市長や自治体職員たちの姿を描く。過疎の町が公立病院を持つことすらこの国は許さないのだ。
 こうした状況になった原因と責任はどこにあるのか。

●さまざまな形で自治体を煽った国に責任があるのか。国に頼り切って、自分たちで責任を持って行動することを避けてきた自治体の幹部たちにあるのか。それを支援した住民たちにあるのか。それともバブルという時代のせいなのか……。答えは、おそらくそのすべてなのだと思う。(P267)

 と書いているが、やはり一番責任があるのは国だ。その上、彼らだけが給与も減らず、クビにもならないと思うと怒りさえ覚える。少なくとも、たまたまその市町村に住んでいただけの住民の最低限の生活だけは保障することが必要だ。自治体財政健全化法だけでは、こうした住民の生活は守れないのは明らか。自治体財政と住民サービスのあり方を再編・再構築していく必要がある。

自治体クライシス 赤字第三セクターとの闘い (講談社BIZ)

自治体クライシス 赤字第三セクターとの闘い (講談社BIZ)

●本来、第三セクターは地元にとって貴重な雇用の場となってきたし、自治体病院は住民の健康を守るために不可欠な存在であるはずだ。地域と人々の暮らしを支え、守ってくれるはずの施設が、なぜ逆に地域と人々の暮らしを追いつめているのか。その大きな原因となったのが、2007年6月に成立した一つの法律だった。その名は「地方公共団体の財政の健全化に関する法律」という。(P24)
●本来、責任を問われるべきは、第三セクターを設立して杜撰な運営を続けた昔の首長らだが、彼らの多くはすでに退職している。また、無謀な計画だと知りながら融資を行った政府系金融機関においても、誰かがその責任を取らされた事例は、寡聞にして知らない。そして、自治体を第三セクター設立や自治体病院の改築に走らせた国は、今になって「地方分権の時代だから、自治体自身の責任で解決するのが筋だ」などと言い出している。(P38)
地方自治体を守らないで企業を守るなんて、国はおかしくないか(P117)
第三セクターはもともと国が旗を振ってできたものなんです。『地方再生のために必要だ』と言って国が号令をかけた。この点は、最後まで残る第三セクターの本質的な部分です。だから『国の責任はどうするのか』という議論は必ず出てくる(P206)