とんま天狗は雲の上

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日米同盟の正体

●2005年10月29日、日本の外務大臣防衛庁長官と米国の国務長官、国防長官は、「日米同盟:未来のための変革と再編」という文書に署名した。日本ではこの文書はさほど注目されてこなかったが、これは日米安保条約にとって代わったものと言っていい。(P3)
●国民のどのくらいの層が、日本は米国の戦略に沿って中東など世界規模で軍事展開をする約束をしていることを認識しているだろうか。(P7)

 衝撃的な書き出しで始まる本書は、日米安保条約以来の日米同盟の内実が大いに変質してきていることに警鐘を鳴らし、真に日本の国益に根差した安全保障戦略と外交を展開する必要を指摘するものだ。
 筆者の孫崎氏は、外務省で国際情報局長、駐イラン大使を歴任し、その後、防衛大学校教授に就任した外交の専門家だ。かつ、防衛大学校での経験を経て、軍事についても知識と見聞を深めたという。本書の巻末に、核兵器や戦略論、日米関係など12の項目にわたって推薦書が列記されているが、本書の中でもこれらの関係書物を頻繁に引用しつつ、日米関係の変容、安全保障・戦略論、国際情勢の変化、核抑止論などを展開する。
 基本的な主張はこうだ。「米国はかねてより自国の国益と戦略のもとに、日本を軍事的に利用してきた。そして冷戦後は強大な軍事力を維持するため、中東・北朝鮮などを新たな脅威として設定し、世界的な軍事戦略を展開している。新たな日米同盟は、そのための膨大な費用を補填し肩代わりさせるとともに、経済も含めた日本の国力を削ぐ意味でも機能している。それは本当に日本の国益につながるのだろうか。幸いこれまでの日本外交や高い技術力・経済力に対する世界の評価は高い。日米同盟を離れ、友好を中心に据えた日本独自の安全保障戦略を展開することこそ、今日本に求められる外交・安全保障戦略ではないか。」おまえの勝手な読み取りと考えだろうと言われそうだが、大筋ではこんなところだろう。
 普天間問題の解決を約束した5月末がいよいよ近付いてきた。単に公約を守るという意味に囚われず、今後の日本外交や安全保障の観点から米軍基地問題はどうあるべきか。このことを考えたいと思う。今、米国に「米軍基地の国外移転」を突き付けたとしたら、米国は日本に攻撃を仕掛けてくるのだろうか。まさかそんなことはあり得ない。
 「米軍基地を提供しておけば米国はいつまでも日本を守ってくれる。」そんな幻想を捨てて、自らの手で自らの安全を確保する。その戦略を考える必要がある。鳩山首相が言いたいこともそこにあるのではないだろうか。

日米同盟の正体~迷走する安全保障 (講談社現代新書)

日米同盟の正体~迷走する安全保障 (講談社現代新書)

●米国にとって日本における米軍基地がいかに重要かを認識すれば、「米国は日本を守るが日本は米国を守らない。この非対称性を補うため、日本はできるだけ他の分野において米国に貢献しなければならない」などという負い目を感ずる必要はさらさらない。米国戦略にとり、日本に基地を持つことは極めて優先順位の高い意義を持つ。日本側にこの認識があるか否かが、今日の日米安保条約のあり方を考える岐路になる。(P125)
●現在の日米関係の危うさは、繰り返すが、日本側では安全保障面で、「なぜ同盟が必要か」をさして論ずることもなく、損か得かで決めていることにある。なぜ安全保障面で協力することが日本双方のプラスになるかを双方で真剣に議論しておかないと、日米安全保障関係は一気に崩れる危険性がある。(P146)
●日本を守るのは何も米国が善意で行っているのではない。日本の核兵器保有を防ぐことを目的の一つとしている。米国が日本を守る姿勢を示すことは、第一義的には米国の国益のためである。(P223)
北朝鮮を早期に国際社会の一員にするとともに、彼らが軍事行動によって失うものを作っていくことが日本の安全保障に繋がる。自分たちと敵対する国をできるだけ国際経済の一員にし、日本がその中で尊敬される位置を占めること、じつはこれが極めて有効なわが国を守る手段である。(P244)