とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

スリジエセンター1991

 私の頭の中の桜宮サーガを遊弋し、本作品を係留すべき時代を探した。「ブレイズメス1990」の後、「ジェネラルルージュの伝説」の東城デパート火災での速水の伝説誕生と同時期。ファンサイトを見ていたら、「ブラックペアン」シリーズの完結編と書かれていた。えっ、「ブラックペアン1988」ってどんな内容だっけ。自分のブログを読み返しても思い出せない。確か佐伯教授がかつて手術をした患者の腹中にブラックペアンが残したとかいう内容ではなかったっけ。いかん、覚えてない。次は「モルフェウスの領域」を予定しているが、その後にでも読み返してみなくては。
 とは言っても、渡海医師の噂が語られる位で、「ブラックペアン1988」と直接的な関係はなし。単独でも十分楽しめる。と言うより、極北シリーズや「ジェネラルルージュの凱旋」などの出発点としての価値が高い。本作品を読むと、高階病院長と藤原看護師との関係など、時系列的にこの後に展開される作品群につながるエピソードが多く載っている。ある意味、桜宮サーガのミッシングリンクを埋める役割を担った作品かもしれない。
 それにしてもいつもながら楽しい。天才・天城医師が学会の公開手術の場でまさかの窮地に陥り、そして天命を悟り、自ら身を引くところまでは想像できたが、最後の運命は・・・。こうしたセンチメンタルな人間ドラマも海堂ワールドの魅力だが、今につながる研修医制度など医療制度に対する告発も興味深い。天城医師のスピンオフ作品くらいに考えて読み始めたが、実は桜宮サーガの中心となる作品だった。海堂ワールドはブラックペアン・シリーズが中心となってできあがっている。世良こそが海堂ワールドの中心人物だったとは、本作品を読んで初めて知った。

スリジエセンター1991

スリジエセンター1991

●「後先考えずに無茶な企画に加担できるのは、老い先短い我々だからこそ、ではないのかな」(P145)
●「不確定な世の中を渡っていくために大切な能力は三つある。誰よりも遠くを見通せる目、微かな危険も嗅ぎ当てる鋭い嗅覚。そして三番目はツキだ。(P277)
●「革命は必ず失敗します。なぜなら革命家は必ず死ぬからです」・・・―さみしいこと言うなよ、ジュノ。忘れたのか? 革命とはこころに灯った松明の火だ、と言った私の言葉を。・・・ジュノの中では、私という松明の炎が今なお、こうして燃え続けているではないか。ならば私は死んでいない。(P409)