とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

ブレイズメス1990

 「ブラックベアン1988」の続編という位置付けだが、ストーリーとしての関連性はない。ブラックベアンでは研修医として赴任直後だった世良が3年目。垣谷講師についてフランスで開催される国際学会に行くところから物語は始まる。モンテカルロ・ハートセンターの天才外科医・天城雪彦を東城大学に連れて帰るという大仕事をやってのけた世良だったが、その後も引き続き、天城に振り回される。
 自ら守銭奴のように言う天城だが、その心は経営まで視野に入れた医療界の再生を考えていた。スリジエ・ハートセンターの構想はいったいどうなってしまうのか。スリジエ・ハートセンターの建設予定地の裏に立地する桜宮病院の崩壊を描いた「螺旋迷宮」には、スリジエ・ハートセンターのことは書かれていなかったと思うのだが。そして世良と花房の恋愛。
 相変わらず多くの小説とどこかでつながってますます桜宮サーガは複雑になってきた。正直これを書く前に、ブラックベアン1988やら螺旋迷宮やらを取り出して、世良や天城について確かめた。天城は本書以外にはまだ登場していないようだ。それにしてももうこれ以上私の頭の中には桜宮サーガの登場人物たちが収容しきれなくなりつつある。うーん、大混乱だ。

ブレイズメス1990 (講談社文庫)

ブレイズメス1990 (講談社文庫)

●社会が成熟しても戦争は絶対になくならないし、人殺しも存在し続ける。なぜなら・・・ヒトはヒトを殺すようにプログラミングされているからだ。・・・もしそれを根底から排除したら、その時はヒトが人でなくなる時だろう。(P102)
●「病気で弱った人間は、自殺しなければ、いずれゆるやかに殺される。今の社会は好景気で浮かれ、市場原理を見失っている。だから厚生省がひそやかに紛れ込ませた『医療費亡国論』などという戯言をうかうか見逃した。あの暴論こそ即座に叩き潰すべき、医療を滅亡に導く致死的遺伝子だというのに」(P232)
●「スリジエ・ハートセンターの最終形は、地域密着型の巨大総合病院だ。それに留まらず、そこに医療を中心とした街作りを基本骨格にした、新しい文化都市が出現する」・・・「日本に溢れる巨額の富のほんの一部を医療に還元すれば、いずれ日本が凋落したとき、日本を支える柱になるだろう。(P249)
●「ソメイヨシノの寿命は70年。・・・この長さ、何かに似ていると思わないか?」・・・「人の一生だ。私も70年で生涯を閉じる。さくら並木が続くのは、そこにさくらが植え続けられるからだ。スリジエ・ハートセンター、それは母なる桜宮のさくら並木だ。完成すれば、寿命70年のさくらたちが集い、春になれば毎年、見事な花を咲かせるだろう」(P370)