とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

(株)貧困大国アメリカ

 とにかくショックである。既に多くのブログで本書が紹介され、多国籍企業や「1%」に買われ操作されるアメリカの実態はある程度理解していたつもりだったが、改めて本書を読んでみると再び大きな怒りと絶望に襲われる。TPPを手始めにアメリカの毒牙にかかって腐っていく日本の姿を想像して・・・。
 アメリカの生活保護制度SNAPの実態。中流市民の夢を食い物に奴隷農場を拡大させる大手食料企業と政府の癒着。モンサント社が進めるGM種子ビジネスは国家戦略と一体となってイラクやアルゼンチンへ進出し、国家を破壊して企業による世界支配を進める。オーガニック表示さえもカネで買われ、真の自然農業が追い出される実態。
 ひどいのは食料だけではない。デトロイトでは自治体の財政危機とともに公教育が血祭りに上げられる。いや、教育だけではない。富裕層と大企業によって独立特区という形で自治体が独立し、低所得者が切り捨てられる実態。「もはや『公共』という概念は、存在しない。」(P203)という現実がアメリカにある。
 そして何より許せないのが、それらの酷い政治が国民の期待を一身に背負ったオバマ政権により進められているということ。保守対リベラル。共和党対民主党という対立はもはやイメージとしてあるだけで、実態はそれすらメディアや大企業が作り出していると言う。アメリカの民主主義は既に「1%」によって変質し、国民の理想の中にあるにすぎない。だからこそ罪深い事態が進行している。ティーパーティですら、健全な保守活動から始まったはずが、スポンサーがついた時点で「1%」に利用されていたという事実。
 こんなアメリカに救いはあるのか。筆者はエピローグでかろうじて実質的に「1%」を切り崩そうという活動に光を当てる。だが今はまだかすかな明かりに過ぎない。本当にこの「抵抗」が効果を挙げるのか、定かでない。アメリカの「1%」はアメリカ国内に飽き足らず、世界中をその支配下に置こうとしていることは、本書のイラクやアルゼンチンの状況を読めば理解できる。もちろんTPPはその一環であることは間違いない。インドではアメリカの「1%」とインドの「0.1%」が手をつなぎ、国内農業を破壊したという。
 時代は経済を中心に新たな局面を迎えている。シロアリのように獰猛な株式会社アメリカに喰い尽くされないよう、世界の「99%」は手をつないで抵抗しなくてはいけない。

●勤勉で英語堪能、組合もなく福利厚生も要らず。労働条件には一切文句を言わず、最低賃金の十分の一ほどで雇用できる囚人労働者は、今全米の企業からひっぱりだこの人材だ。2001年の同時多発テロ以降、国の最優先政策になった「治安と安全保障」のおかげで各州の厳罰化が進み、囚人数は猛スピードで拡大している。(P45)
●「ブッシュ元大統領は、アメリカがイラクに民主主義の種を植えたと言い、オバマ大統領は米軍がイラクを主権国家にしたと言う。けれど実際は、合法的な略奪でした。イラク市民の食料安全保障における自立を支援すると言いながら、81令のような「非常に有害な新法」でイラクの農地をアグリビジネスの国外生産地にし、誇り高いイラク農民を現地の雇われ労働者にしてしまった。(P136)
●政府統治機能を株式会社に委託するというサンディ・スプリングスの誕生は、小さな政府を望む富裕層の住民と大企業にとって、まさに待ち望んでいたことの実現だった。・・・独立特区の誕生により誰よりもショックを受けたのは、周辺地域の政治家と住民だった。・・・いったい富裕層の税収なしに、どうやって同地域に住む低所得者のための公立学校や公立病院、公共交通、福祉行政などを維持してゆけばいいのだろう。・・・サンディ・スプリングスが象徴するものは、株式至上主義が拡大する市場社会における、商品化した自治体の姿に他ならない。(P201)
●80年代から加速した規則緩和と民営化、垂直統合、政府・企業間の回転ドア、ALEC、そして市民連合判決といった一連の動きが、アメリカを統治政治から金権政治へと変えていった。寡占化によって巨大化した多国籍企業は、立法府を買い、選挙を買い、マスメディアを買うことでさらに効率よくその規模を広げていく。(P234)
●「赤と青に分断されたアメリカ、そのとおりです。国民の意識は保守対リベラルにひきつけられる。けれどそれはバーターで、今のアメリカ民主主義は「1%」によってすべてが買われているのです。司法、行政、立法、マスコミ……「1%」は二大政党両方に投資し、どちらが勝っても元は取る。テレビの情報を信じる国民は、バックに巨大企業がいることなど夢にも思わずに、いまだに敵を間違えているのです」(P239)