とんま天狗は雲の上

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新・資本主義宣言

水野和夫氏と古川元久氏の二人が編者になっているが、古川元久民主党衆議院議員)が主宰した「『新しい資本主義と成長』を考える会」での発表と対談が元になっている。水野和夫氏の名前を見て読もうと思ったが、本書の中では水野氏は持論の経済史を書いている程度で、対談の進行は水野氏が務めているものの、実際の切り回しは古川元久氏が中心になっている印象。
 論考を寄せているのは、中谷巌(経済学)、川上量生ドワンゴ会長)、山田昌弘(家族社会学)、永田良一(新日本科学社長)、澁澤健(コモンズ投信会長)、黛まどか俳人)、田坂広志(社会起業家論)の7氏。対談には彼らの他に古市憲寿社会学)が加わっている。これまで名前も知らなかった方も多く、彼らの論文はそれぞれ興味深い。
 各自がそれぞれの言葉で語っているが、その内容は大きな違いはなく、「新しい資本主義は貨幣だけではなく、幸福を高める方向で価値観や企業観が変化していく」といったことを述べている。 田坂広志氏は自著の「目に見えない資本主義」を引いて、「操作主義経済から複雑系経済へ」「知識経済から共感経済へ」「貨幣経済から自発経済へ」「享受型経済から参加型経済へ」「無限成長経済から地球環境経済へ」の5つのパラダイム転換を語っている。
 中谷氏は「交換経済から贈与の精神を組み込んだ経済へ」、川上氏は「利益至上主義から売上至上主義の企業の社会的価値を重視する社会へ」、山田氏は「承認や評価を生かしていくこと」を、さらに渋澤氏は「持続性や多様性のある経済」を提言している。俳人の黛氏、密教学の修士でもある永田氏も独自の世界観で幸福の実現に向かう社会・経済体制について述べている。
 そのとおりだと思う。が、なかなかそうした方向への変化の兆しが見られない。いや兆しはあるが、時代は数十年から百年を超えるオーダーでじっくり変化をしていくもののようだ。変化が成就する前に資本主義の悪が世界を席巻し焼き尽くすのではないかという危惧もないではないが、新しい変化を期待を持って見守りたいと思う。時代は確実に変化を始めている。

新・資本主義宣言 (7つの未来設計図)

新・資本主義宣言 (7つの未来設計図)

●「資本主義以降の世界」を主体的に構築できるかどうかは、もっぱら市場を通じた「交換」を軸にして成長を実現してきた資本主義世界を、「贈与の精神」をキーワードに利他の精神を組み込んだ新しい体制に転換できるかどうかにかかっている。[中谷巌](P056)
●企業とは収入金額よりも支出金額の方が社会的にはより大事なのではないでしょうか。現在は、売上至上主義から利益至上主義へと価値観が変遷していますが、本来ならば、支出の多さでその企業の社会的価値を判断すべきです。・・・ですから利益率が高い企業というのは、むしろ社会の寄生虫です。[川上量生](P072)
●畢竟、幸福とは「人生を肯定されること」に依拠しているのですから、承認や評価を得ることに直接お金を使うという新しい幸福の物語を日本で作り、それを皆で共有し深めていくことが、新しい資本主義における、新しい幸福の形ではないでしょうか。・・・承認や評価をうまく回していくシステムにこそ、新しい資本主義社会の可能性があると思います。[山田昌弘](P106)
●日々何かを諦め、許し、笑い飛ばすことで、苦しみや悲しみを浄化し昇華していったのだ。諦め、許し、笑いは成熟の証だ。/時代は、残念ながら許しの時代から甘えの時代へと変遷した。他者を許すことができるのは、一人一人が自分で立っているからだ。だから許せる余裕がある。他者に寄りかかって生きているのではその余裕もない。[黛まどか](P192)
●本来、社会や市場の秩序が保たれているのは、「法律」があるからだけではなく、こうした「倫理」と呼ばれる「自己規律」の原理があるからなのです。成熟した社会とは、そもそも「法律規制」や「自由競争」だけでなく、こうした「自己規律」=「倫理」と呼ばれるものが人々や企業の行動原理の核になっている社会のことなのです。[田坂広志](P225)