とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

自由 上☆

 ドイツの元首相、アンゲラ・メルケルの自伝。上巻は、東ドイツでの生まれと成長から、ベルリンの壁の崩壊、そして政界に進出し、ドイツ最初の女性首相となるところまでを描く。子供時代から、壁が撤去されるまでの第1部。東ドイツで政治活動を始め、統一後の連邦議員となるまでの第2部。議員としての経験を重ね、CDUの党首となり、連立調整の結果、首相選出が確実となるまでの第3部。そしてメルケルが連邦首相となり、忙しい日々が始まった最初期を振り返る第4部の冒頭部分までが上巻に収録されている。

 やはりまずは、メルケル東ドイツでどのような境遇で生まれ育ったのか。物理学者の道から政治家へ転身した経緯。その後もわずか10数年でいかにして首相にまで上りつめることができたのか。そんなことに興味が沸く。そして上巻ではそのことが余すことなく書かれている。

 たぶんに運に恵まれた部分もある。だが、メルケル自身が真摯に政治に向き合ってきたことが大きいのだろう。また、メルケルに関わる多くの政治家や事務職員たちも、それぞれの知見と専門を生かし、いずれも真摯に政治に向き合っているように見える。権力欲に駆動される日本の多くの政治家とは違うようだ。はたして、ここまで真剣に政治や国民の幸福、社会の公正さや正義の実現に向き合っている政治家が日本にはどれだけいるのだろうか。そう思うと暗澹とした気持ちになる。

 下巻では、首相として直面した数々の政治的状況に対して、いかに考え、判断をしたのかが描かれているのだろう。もちろんそれにも興味はあるが、下巻を読むのはしばらく先になりそうだ。だが、上巻だけでも十分に読み応えのある内容となっている。

○森や草原で、自由に遊ぶことが、泳ぐことが、冒険することができた。牧師研修所の職員や学生たちを相手にした数多くの会話や尽きることのない知的刺激も、頼もしい防壁だった。…だが、私に最も安心できる空間を与えてくれていたのは、母だった。…何より重要だったのは、私が家ですべてを「打ち明ける」ことができ、…この世界で自ら決断を下す方法をじっくりと教えてくれたことだ。体制のなかで…私たち子どもは、絶望も委縮もせずに済む決断を下す方法を教わった。(P62)

○あるとき、私は見方を変えた。国なんかどうでもいい。…本当に大切なのは自分の人生では? 敵対的な条件下でも、全力を尽くして自分の力を示すことこそが、本当にしたいことではないだろうか?…東ドイツには実際に多くの制限があった。それでも、自分の置かれた状況下で、ふてくされたり、絶望したり、若くして諦めたりするのではなく、自分自身のためにできる限りを尽くそうと思うようになった。(P98)

○守れない約束はしないと、私は心に誓っていた。彼らはすでにじゅうぶんすぎるほど失望を味わってきたのだから。また、そこにいないボンの政治家たちにすべての責任を押しつけるという誘惑にも負けないよう努力した。二枚舌にならず、どこにいようといつも同じことを言う。そう自分に課していた。…数十年にわたる悪政のツケを、どうすれば国民に公平に振り分けることができるだろうか? この正義の問題に、残酷なまでに真正面から向き合うことになった。(P185)

○私は社会的市場経済を理想とし、経済と政治は困難な問題においても責任を分け合うべきだという考えをもっていた…。私はそのような理想はまやかしであることを学び、最後には必ず政治が勝つと知った。…結局のところ、公益、つまりすべての人の幸せに対して責任を負うのは、大企業や成功企業などといった経済組織ではなく、国家なのである。(P248)