とんま天狗は雲の上

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なぜローカル経済から日本は甦るのか

 昨年話題になった本である。今年は増田寛也との対談集「地方消滅 創生戦略篇」が話題となっている。また昨年10月には文科省有識者会議でL型大学・G型大学について発言し、物議を醸したことも記憶に新しい。タイトルからはローカル経済を評価する内容のように思うが、副題は「GとLの経済成長戦略」。グローバル経済とローカル経済それぞれについて成長に向けての処方箋を描く。

 グローバル経済圏で勝負する企業に対する処方箋は何となくそんなものかなと思う。ただエピローグで書かれているとおり、安倍政権成長戦略がグローバル成長だけを対象としているという指摘はそのとおりだ。私自身、ローカル経済圏で仕事をしてきた人間だし、日本人のほとんどはローカル経済圏で生きている。GDPの大半もローカル経済圏から生まれている。やはりローカル経済圏をいかに活性化させるかは日本の経済にとって最重要な課題だ。

 それでローカル経済圏を活性化させるには労働生産性を挙げることだと言う。ローカル経済圏ではしばらく前から人手不足状態にあり、それは今後も続く。しかも需要は地域密着的で本当の意味の競争環境にはない。だから放漫な経営でも存続してしまう。存続するならそれでいいような気もするが、日本の中小企業には政策的に税金が投入され、支援されることにより維持されている。また需要が低迷した時には、労働生産性の低い企業に引きずられ、地域の業界が共倒れとなることもある。そこで労働生産性の低い企業には穏やかに退出してもらって、労働生産性の高い企業だけが残るようにしていく。それがローカル経済圏全体の労働生産性の向上につながり、地域経済の活性化につながる。

 言わんとすることはわかる。「穏やかな退出」を促すため、ワンマン経営で後継ぎが無能な企業には無理なく倒産してもらえるような制度改正などを提案する。しかしそれは結局、ローカル経済圏にも競争原理を導入しろということではないか。そう感じて反発する人もいるだろう。でも結局は穏やかではなくても労働生産性が低い企業は退出し、将来的には地域寡占安定化状態になっていくのではないか。

 だがその場合の地域の範囲はどのくらいだろうか。筆者が例に挙げるバス路線であれば県内位だろうし、コンビニなどでは全国的な気もする。美容院などであればもっと地域限定的だろうし、そこにしかないサービスもある。つまりそれは増田寛也が言うように、必ずしも地域拠点都市というレベルに収束するわけではない。業種によって地域の範囲は多様であるはず。

 たぶん筆者が言うように、ローカル経済圏では労働生産性の高い企業が生き残るべきということは正しい。しかしそれが増田寛也の言うような「地域消滅」「地域創生」とは必ずしもリンクしない。恣意的に、政策的に地域集約化すべきではない。経済的に自然にその方向に向かう。それを受け入ればいい。何よりローカル経済圏に暮らす我々は日々、自分の仕事に矜持をもって、真面目に真剣に仕事に取り組んでいけばいい。そうすれば自然と労働生産性は上がり、地方は豊かになっていくはず。筆者が言っていることは結局そういうことなのだろう。

 

なぜローカル経済から日本は甦るのか (PHP新書)

なぜローカル経済から日本は甦るのか (PHP新書)

 

 

 

○グローバル経済圏とローカル経済圏は緩やかに相互依存的であり、相互補完的であると言えるのだ。/だが・・・直接的な関連性が薄れているのは事実だ。経済性も産業特性も異なる世界を同時に抱えて成長戦略を進めるには、グローバル経済圏とローカル経済圏それぞれで別の戦略を用意し、二つの世界を共存させていくことが望ましい。(P54)

○ローカル経済圏では、需要はそれなりにある。しかし、構造的に労働力が不足する状態に入った。・・・このタイミングで、生産性の低い企業には、穏やかに退出してもらい、事業と雇用を生産性の高い企業に滑らかに集約するべきだ。/そうすることで労働生産性が上がり、それに伴って賃金も上がるはずだ。むしろ生産性を上げなければ、人手不足が足かせとなって成長の妨げとなる。/見方を変えれば、ローカル経済圏では生産性に大きな格差があるからこそ、集約化による生産性向上の伸びしろがあると言えるのではないか。(P184)

○ローカル経済圏のサービス産業はキャッシュフローが安定している。グローバル競争に巻き込まれている製造業やIT企業と比べ、Lモードの企業における経営上の不確実性は小さいからだ。・・・労働集約的で雇用吸収力が高いという意味でも、また社会性の高い業務を従業員たちにちゃんと遂行してもらうための待遇保証という意味でも、ここで最も重要な指標は、労働生産性のほうなのである。(P218)

○自分の仕事にどれだけの矜持が持てるか。この思いが、職場の規律を維持するうえで大切な要素になる。教示を持つことができて、それほど生活に困らない安定した収入があれば、自分なりの幸福感をつくっていける。おそらくそれが、これからのローカル経済圏のゴールになる。(P249)