とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

傘を持ち去る女。「自分勝手なわらしべ長者」

 先日、雨の中、ATMで現金を下ろそうと銀行へ行った。入り口にある傘立てに傘を置き、用を終えて出ようとすると、傘がない。ふと外を見ると、ちょうど交差点のところで私の傘を差した高齢の女性が信号を待っている。間違えたのだろうと思い、咄嗟に傘立てに残っていた私のものと似たビニル傘を掴んで、女性の元へ向かう。幸い信号はまだ変わらず、追い付いて「傘を間違えていませんか」と声をかけたら、「ごめんなさい」とか言いながら傘を交換してもらった。

 しかし、私の傘は数年前に急な雨に降られて某SAで買った500円程度の安物であり、かつだいぶ汚れて、骨も一部は曲がって、いつ捨ててもいいような傘だ。それに対して、咄嗟に掴んで渡した傘は、同じビニル傘ながらもずっとしっかりしており、1000円以上はしそうな感じ。とても間違えたとは思えない。いや、私なら絶対に間違えない。

 ということは、その女性はたぶんもっと古ぼけた傘、しかもビニル傘ではないものを持ってその銀行まで来て、帰りに、自分のものよりは多少マシだが、その次くらいにボロイ傘を持って帰ろうとしたのではないか。「自分勝手なわらしべ長者」。

 もちろん断定してはいけない。高齢のため本当に間違えたのかもしれない。私としては、自分の傘が戻ってきたので、それ以上彼女を追及する義務も必要もないのだが、それにしても疑念だけが沸き上がってくる。たぶんこんな高齢者は多いのだろう。いや、高齢者だけでなく、若い人でも同様かもしれない。

 私は、そのビニル傘の他に普段は、10年以上前に2000円程度で購入した男性用の傘を使用している。これまで何度も、たぶん年に1回近くは、バスの座席の横や飲食店の傘立ての中などに置き忘れ、その度にバス会社や飲食店に電話をしては取りに行っている。先日、たまたま近くのモールの閉店セールの際に、久しぶりに新しい傘を購入した。しかし、先日もまた古い傘を飲食店に置き忘れてきたが、わざわざ交通費を使って取りに行き、いまだに新しい傘を下ろしていない。

 たぶん、こんな人間の方が珍しいだろう。多くの人は雨が降れば、傘立てに残った古びたビニル傘を使うことに大して罪悪感を抱かないのかもしれない。それでもやはりそれは犯罪行為だ。せめて翌日にでもビニル傘を返しに来るくらいのことはすべきではないか。などと考えつつ、その翌日の夕方、突然振り出した雨の中を傘も持たずに走って帰った。妻からは「タクシーに乗ればよかったのに」と言われた。