とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

欧州サッカー批評

 「サッカー批評」誌のアンケートで再三、世界の話題を取り上げてほしいと送っていたら、何と「サッカー批評」の欧州版が発行された。喜んで発行直後に購入した。
 記念すべき創刊号の最初の特集は「近未来のフットボールを解明する 戦術はまだ進化するか?」。実際には解明もできないし、進化とは何を持って進化と言うかという問題はあるが、変化しつづけることはあまりに当たり前。そんなことは編集者自身も知ってはいるが、それでも欧州サッカーを見る視点として「戦術」は欠かせない。南米は「技術」で進化し、欧州は「戦術」で変化してきたと言えるからだ。
 だから決定的な結論が書かれているわけではない(そんなものはあり得ない)。それでも、カペッロのインタビューを載せ、中小クラブながら今最先端の戦術で各リーグをにぎわしている監督らのインタビューを載せる編集は、「サッカー批評」誌らしく時宜に適っている。総じて時代はより攻撃的に、よりスペクタクルで見て楽しいサッカーへと指向しているように思える。それはヨーロッパの観客がそれを求めているからだ。
 翻って日本はどうだ。日本の観客は何を求めているのか。多くのサッカー・ファンは負けてもチャレンジフルなサッカーを求めていると思うのだが、現実は勝利を求める監督と目の前の収益を求める協会によって、ますます面白くない方向に曲げられているような気がしてならない。最後の記事「WORLD SOCCER NEWS 『Foot!』の舞台裏」で語られた次の言葉はそのことを示している。

Jリーグは語り合わなきゃいけない時期に来ています。でないとJリーグは向上しない。新しいファンも増えないですよ。(P127)

 サッカーは面白い。アンリのハンドを巡るアイルランドとフランスからの報告「ザ・ハンドボール」。ロンドン五輪に向けて「英国代表」チームが実現しない理由を記した「相容れないナショナリズム」。W杯アメリカ大会の「世紀の凡戦」と言われたブラジル対イタリアの決勝戦を振り返る「ビッグゲームの真実」。そしてリバプール・サポーターの熱狂をチャントで伝える「欧州のゴール裏から Supporter's Chants」。そしてエリック・カントナの今を伝える「as Time Goes By あの選手は今どこで何を?」。
 どれを読んでも世界のサッカーの楽しさを伝えてくれる。次号がいつ発行されるのか、どこを読んでも書かれていない。が、次号も出したいと言う気持ちだけは強く伝わってくる。この内容なら十分楽しめる。読む価値がある。無事、次号が発行されるのを心から応援するとともに、心待ちにしている。あ、半年に1回位でもいいし、いつかアフリカや他大陸の特集もやってね。次号は「南米サッカー批評」でもいいな。

●そもそも、サッカーの戦術に、”イノベーション(革新)”など存在しないからだ。可能なのは、過去を模倣し発展させることに限られる。当然、今日に見る戦術にも新しいものは1つとしてない。あくまでも過去に見た形の模倣であり、それにいくつかのアレンジを加えたものに過ぎない。(P012)
●本当は強者が好きでありながら、強い者は叩き、弱い者にはやさしい、それでいて、都合の悪いことは「これも人生だ」とさらりと流すラテン気質も持ち合わせる。ひねくれ者で楽観的なフランス人たちは、まるで茶番のようなフェア精神を振りかざしながら、しっかりと美味しいところは手に入れた。(P075)
●本来、言葉も同じではない。・・・もともとスコティッシュはゲーリックという別の言葉を話していたからだ。ウェールズアイルランドも同様で、昔は異なる言語を話していた。それらの国の人たちが英語を話すようになったのは、過去の苛烈なイングリッシュの同化政策の結果と言えるのだ。(P077)
●麻薬や暴力の蔓延。11歳の少年が16歳の麻薬の売人に間違って射殺される街。こうした厳しい港町で生きる男たちは、愛するクラブの勝利だけに生きる喜びを見いだすようになる。彼らがアンフィールドで上げる雄叫びは、「俺のくだらない人生に夢と喜びを与えてくれ!」という壮絶な祈りでもあるのだ。(P116)