とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

クリスマス・キャロル

 有名な名作の一つである。昨年のクリスマス・シーズン、いつもよりも多くこの作品のことを耳にしたように思う。日曜午前のFM放送「パナソニック・メロディアス・ライブラリー」でこの本が取り上げられたのは、調べてみると一昨年のクリスマスのことだった。何故か今もその時の小川洋子の朗読や解説の声を思い出す。確かこの本の出だしの部分を読み上げていた・・・。
 あらすじはある程度想像していたとは言え、ほとんど過去・現在・未来の幽霊との話で終始するとは知らなかった。最後に改心してみんなに施しを与える場面はつけたし。未来の自分が死者だったことを知る場面も。
 過去で明らかにされるスクルージ自身の淋しい人生。それが彼を金に汚い非情な人間にしていった。婚約者との別れの場面、「あなたの世間を恐れる心が金儲けにしか興味を抱かない人間に変えてしまった」という指摘は心に沁み入る。
 スクルージのようにはならなかっただろう私たちの中にも、世間に傷つき恐れ、自分を守るがあまり頑になることはよくある。心をひらき、人々の中で、みんなと共に生きていくこと。それこそが人間としての生き方だと語っている。
 教条主義、ご都合主義という感じもしないではない。だがそうした中にも、人間としての基本的な生き方への道筋は、明るく照らし出されている。たまにはこうした古典を読むのもいいものだ。

クリスマス・キャロル (集英社文庫)

クリスマス・キャロル (集英社文庫)

●1年もの長い暦の中で、男も女もみんな同じ考え、同じ気持ちになって、閉ざした心をわだかまりもなく開け放って、自分より目下の人々のことを、別の旅をする別の種族だなどと考えないで、本当に一緒に墓場に行く仲間のように考える、そういう唯一の時期だ、とぼくは思っています。(P15)
●「あなたは世間を恐れすぎるんです」彼女がやさしく答えた。「あなたのすべての希望が、世間の汚い非難を受けないものになろうという一つの希望の中に、呑みこまれてしまったのですわ。あなたの高尚な抱負がひとつひとつ消え落ちていって、とうとう金儲けという大きな情熱にあなたが夢中になってしまうのを、あたしは見てきましたわ。(P74)
●あの方は『あなたの優しい奥さんにも、本当にお気の毒に思います』と言った。そして名刺を出して、『なにかお役に立つことがありましたら、ここがわたしの住んでいる所です。どうぞお越しください』そう言ってくれたのだよ。それがとても嬉しかったのだが、なにかわたしたちのためにしてくださるからじゃなくて、こんなふうに親切に言ってくれたことが嬉しかったんだ。(P155)
●なによりありがたいことに、彼の前にある時間は自分のもので、そこで償いをすることができるのだ!「わたしは過去、現在、未来に生きるだろう!」(P162)